KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

ドキドキパニック

かつて日本はオイルショックの時代にトイレットペーパーがなくなるという噂からパニックが生じました。アメリカではあるラジオ局が実しやかに「UFOが地球を襲った!」という演出をして、町中が大混乱となる事態を引き起こしました。集団でパニックが発生するというのはどういう状態からでしょうか。

集団心理が働く結果、一様に皆同じような行動をとります。つまりは隣が右を向けば、こちらも右を向きたくなります。右に倣えということですね。これは子供の時代から指導者の都合の良いように集団行動を強要された教育方針に問題があるのでしょうか?となるとマスゲームで動く北朝鮮の人たちは日本人よりパニックに陥り易いということになるのでしょうか?

恐らくは教育に因る部分もあるでしょうが、防衛本能の一つとして「集団で行動していれば少なくとも自分一人がやられなくて済む」という部分が大きく作用しているのでしょうね。

冒頭に述べたパニックは全てマスコミによる誤報から生まれました。当時は国民が受け取る情報の経路は新聞やラジオ、テレビ(普及率は低かったでしょうが)そして隣近所のコミュニティといったものが主流でしたが、今は加えてネットの時代になっています。とはいえネットも本質的にはこれらのネット版のマスコミやどこかのネット利用者、すなわち隣近所とは別の新たなコミュニティが加わった程度で変わりはありません。ただ、モバイルの普及でその情報がより浸透し、得易くなったという程度です。

となると、以前よりパニックが起こった場合、その強さは増したと言えるはずです。一方、誤報かどうかを確認できるツールも増えたわけで、誤報が報じられる可能性は減ることになりました。結果「パニックは起こりにくくなったが、一度起こったら大きい」ということになります。

株の世界を例にとっても、個人投資家がある情報を鵜呑みにして仕手やバブル相場に突入することは未だ絶えることはありません(ただ昔に比べて信用取引が増えた分、バブルの程度は抑えられる傾向があります)。

マスコミは大地震の可能性や近隣諸国との緊張状態を連日報じており、国民はすっかり慣れてしまった感がありますが、いつ何のきっかけで日本がパニックに陥るかわからないですから、情報という諸刃の剣を慎重に扱って欲しいと思います。一方で我々も情報に対しては日々裏面にある「発信源の真相」を読み解く訓練が必要ではないかと思います。

そんなわけで今日は小説の日です。例によって前回までの分は毎週日曜のブログをご確認ください。

                   台風一過

第十節 踊る会見場と踊る街角

「K=Aウィルスは風邪のウィルスと同様、鼻や口の粘膜を通じて体内にもたらされます。キャリアは一見、ノンキャリアと区別がつきません。外見上、このウィルスに冒されていても何ら変化はないからです。キャリアは発症後頭が重く感じ、前頭葉部分がウィルスに浸食されるに従って次第に意識が混濁してきます。丁度重度の酔っぱらいに似ています。そして無意識のうちに深層心理に眠る人間のEs(エス)の部分が表に出てしまい、凶行に至る、といったわけです。現在の所、ウィルスを死滅させるには130℃以上の高温で加熱するしか方法はわかっていません。」

説明が終わると教授が壇上から降りる。会見場に集まった記者達は気持ちを抑えきれずにザワザワと騒ぎ始めていた。次に再び国家公安委員長が壇上に上った。

「このような事態になりました以上、政府としてはウィルスの拡散を何としてでも阻止しないといけません。そのため、ただ今より台風が通過したライン上の都市からその他の地域の移動に関しては制限をかけることに致しました。今後東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、福島、宮城、岩手、北海道の道南地域を重度感染エリアに指定し、県境には防衛庁の協力の下、自衛隊細菌化学班と各県警による検問を実施していきます。政府の許可なく、何人たりとも重度感染エリア外への移動を禁止します。エリア内の移動については制限は致しませんが、外出は必要最小限の範囲に止めてください。ウィルスの沈静化が確認されましたら安全宣言と共に検問を解除することに致します。国民の皆様のご理解とご協力をお願い致します。」

国家公安委員長は顔を上げようとせず、下を向いて原稿を棒読みしていた。あるいは顔を上げてテレビで顔を晒すことを極力避けたかったのかもしれない。顔を覚えられると国民の憎悪の対象になることは間違いなかったから。

「本日の会見は以上で終了です。記者の皆様には落ち着きと配慮をもって国民へこの度の事態をお伝えいただきたく存じます。」

会見場の記者に一礼すると、厚生労働大臣と国家公安委員長は会見場から立ち去ろうとする。今まで黙っていた記者達が堰を切ったように怒声を上げる。

「大臣!この事態に今後どのように対処されるつもりですか!」
「どうして発表がこんなに遅れたんですか!?政府はどのように責任をとるつもりか!!」
「検問とはどういうことだ!国民の権利を奪う行為ではないのか!?」
「大臣!委員長!」

怒声に背中を押されるように二人の閣僚は黙って会見場の扉からその姿を消した。テレビ画面は未だ興奮冷めやらぬ会議場を黙々と映し続けていた。

テレビの視聴者側であるこちらもにわかにざわめき始める。それはそうだ。こんな事態になって整然としていられる人間なんているものか。今まで日本の歴史上様々な感染症が国民の安全を脅かしていた。ただ、今となっては日本脳炎天然痘といった病気は誰にも発症していない。ところが今回のウィルスは新種で広範囲に台風によってばらまかれ、しかも有効なワクチンがないという。ただ黙って脳神経がウィルスに冒されていくのを見守るしかなく、政府として取り得る策はキャリアの隔離といったごく初歩的な対策しかないという今回の発表だった。

ひとしきり皆同僚や仲間達と不安を口に出し終えると、等しく共通の思いが浮かんだ。それは「こいつも既に感染しているのではないか?」という思いだった。その途端、皆我先にとリフレッシュルームから外へ駆け出す。私だってその一人だ。間違っても「最近頭が重いような気がしたんだ」なぞ口にしようものなら、まさに村八分状態となるだろう。

ビルの外へ駆け出す。外は発表を知った人達の集団で溢れていた。皆慌ただしく駆け回る。ぶつかる。怒声と悲鳴が飛び交う。地球が恐怖の大王の降臨で滅亡するといった映画のワンシーンであるかのようであった。それを滑稽だと笑っていられる余裕は私にだってない。出来る限り走る。目的地はどこだ?ウィルスが目に見えない以上、安全な場所はこの付近どこにもないだろう。足は自然と自宅の方向に向かっていた。自宅に帰ったからといって安全なわけではない。しかし、それ以外に自分達の居場所がないということは全員の共通した認識であった。まずは家に戻って考えよう。家族と今後を協議しよう。そういった人々でごった返していた。

こういう状況で公共の交通機関が使えるわけではなく、まして電車は常時運休の状態である。先ほどの発表によれば、台風が通過していない地域への移動は禁止されているわけであるから、電車に人身事故の影響がなかったとしても郊外に通ずる路線は動けないはずであった。空港や港湾も勿論ストップがかかっているだろう。

深緑色の護送車が街角に停車する。ぞろぞろと降りてきたのは防毒マスクに顔を覆い小銃を持った武装集団であった。治安維持のため出動してきた自衛隊である。全員が迷彩服を着用し、指揮官らしき人物が部下の配置についてアレコレ指示を出しているのが見える。街には戒厳令が敷かれたようだった。

小銃には実弾がしっかりと入っており、つまりはウィルスに感染したとの疑いのある者はその場で射殺、その後遺体を焼却しろという指示が下っているのであろう。法治国家日本という定義は本日をもって書き換えられたようであった。

パニックを抑えるはずの自衛隊の登場に、街中には余計にパニックの輪が広がる。日本国民の全てがテレビの発表を見ていたとは限らないから、中には何故このような騒動になっているかわからないままの人間もいるであろう。とても走り行く人に問いただせるような状態ではない。そういった人々はわけがわからないまま呆然と立ちつくし、そして家路を急ぐ人々に「邪魔だ!!」と怒声を浴びながらぶつかられ、よろめくしかなかった。(つづく)