KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

疑念も感染るんです。

鳥インフルエンザが中国でまた流行っています。化学の進化は日進月歩ですが、ウィルスの方もまた文明が追いつけない程進化しているようで、明確な万能のワクチンができるのはまだまだ先のようです。

コンピューターウィルスも専門家によると、今市販されているウィルス除去ソフトで発見、除去できるのは全体の2割程度のものだとか。こちらの世界もワクチンは後追いのようですね。まあ画期的なウィルス対策法が出ない限りは後追いなのはしょうがないのですが。

さて、感染症の恐ろしいところは病気そのものにもありますが、周りの人間のケアという2次的な恐ろしさがあります。つまりキャリアの人間に近づくと自分まで感染してしまうのではないかという偏見です。

病気によっては触るだけで感染しないものとか、輸血までしないと感染しないものとか色々あります。噂や恐怖心ばかり先行して正しい知識を社会全体で身につけないと、キャリアの人は何か悪いことをしたわけでもないのに自分の生命と生活のダブルパンチで不安を抱えることになります。

勿論全ての病気について学ぶことは難しいわけで、聞いたことのない感染症も世界にはたくさんあるはずでしょうが、できるだけ理解をしようと努めることはひいては自分の予防にも繋がります。

学校教育の中で病気について考える授業はかなりウェイトとして小さいと思います。何も専門的な知識を覚えさせろとは言いませんが、もう少し取り組み方を変えても良いのではないでしょうか。

さて、今日は日曜恒例の小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログをご確認ください。


台風一過

第十三章 思いだけでは届かない

「ねぇ」
「どうした?何かあったのか?」
「・・・」
藍の様子がおかしい。どう話を切り出して良いのかためらっている様子だ。職場では処理も早く、明晰で優秀な彼女は普段からズバズバ物を言うタイプだ。それでも人からほとんど嫌われないのが彼女の人徳でもあった。そんな彼女が二の句を告げる事ができないということは、良い話でないということを示唆している。

「どうしたんだよ、何があった?」
再度促してみる。
「あのね、私の思い過ごしなら良いんだけど・・・」
ようやく決心がついたようだった。私は黙って次の言葉を待った。
「さっきね、平井さんから電話があったんだけど、どうも様子がおかしいの。自分は間違っていないとか、自分は世の中に受け入れられない存在だとか・・・用件を聞いてもまともに会話が成立しない状態で・・・。」

藍の言わんとする所はつまり「平井はキャリアではないか」ということだ。ウィルスにより神経が冒された人間の症状として当てはまる。ただ確証もないのに他人をキャリア呼ばわりする事は社会的偏見に繋がる。そのため藍は発言をためらっていたようであった。

実は以前から平井が藍に好意を抱いているという噂は社内、というよりうちの部署で持ちきりだった。人が集団で行動し互いに心の内が読めない以上、噂はどうやっても生まれる物であるが、噂なぞ知らなくても平井の行動を見て気づかぬ方が不自然という位に露骨であった。だから勿論私もその点は気づいていた。

平井が私に対してやっかみを持っている理由もそこら辺にあるようだ。三角関係と呼ぶのもバカバカしいと私は思っていた。丸く収まった関係の私たちを上から邪魔する三角錐関係と言う方が適当だろう。何とか平井に人事権がないため、私は地方に飛ばされるというような事態にはなっていなかった。

平井は30代後半で、藍と10歳以上年が離れている。そこは特段問題ではないが平井は妻子持ちである。つまり不倫関係を狙っているわけだ。社会倫理的に許される行為ではない。少なくとも不倫は文化と日本政府は認めていないのだから。

平井は藍に度々「仕事の打ち合わせ」という名目で電話をかけているようであった。私たちのデート中にまでかかってきたことがある。実際に仕事上の話も数%混ざっているようであり、藍も無下に着信を拒否することもできない。職権乱用も甚だしいが、私には平井の行為を掣肘する術も権限もなかった。藍はともかく、私は正直そこまで深刻に考えてなかった部分もあった。

ある種ストーカーの気は元々あるようであったから、藍も今回の行動で彼の事をキャリアと決めつけられなかったのかも知れない。ただ、今回ばかりはいつもと様子が違っていたとのことだった。裏面に異常さを感じたようだ。

「ひょっとして私の所に来るんじゃないかしら?」
藍が怯えたような声を出す。わずかに声が震えていた。
「平井がそっちに向かうような事を言ったのか?」
「ううん、すごく不安だからそう思うだけかも知れない・・・でも私怖いの!」
「わかった。今からそっちに向かうからそこでじっとしていろよ」
「大丈夫?」
「まあ何とか大丈夫だろう」

決して大丈夫ではないが、まだ自分にはホワイトナイトをかって出る空元気は残っていた。念のため花粉症用のメガネやマスクを身につけて外に出る。一週間ぶりの外気だ。特に今までと変わったようには感じないが、空気が少し重たく感じる。自転車で藍の住むマンションまでこぎ出して行った。

ここから藍の家までは時間距離にして3時間はかかる。普段であれば電車で1時間もかからない距離だが、電車が開店休業状態であることは今更言うまでもないだろう。こういう時に車を所有していない自分に後悔するのだが、転んでから杖を購入したところで間に合わないというものだ。今はとにかく先を急ごう。

汗まみれになって藍のマンションに到着したのは日も沈みかけた夕方であった。西の空が赤く染まっている。携帯に表示されている時刻を見てみると6時少し前であった。藍のマンションの脇に自転車を停める。

藍が住んでいるのは2階であったから、わざわざエレベーターなぞ使わずに、階段を駆け上がった。階段から廊下に出て藍の部屋を見通す。すると藍の部屋の扉だけが開け放たれていた。そこから人の声が漏れ聞こえてくる。私は不安を感じつつ、藍の部屋の前まで駆け寄った。

藍の嫌な予感はどうやら的中したようであった。(つづく)