KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

長い年月を経て

小説の方は2週間もお休みしてしまいました。すみません。原稿は出来上がっていたのですが、更新する暇がなかったものですから。ただ、そろそろ原稿のストックがなくなりつつあるので、早めに全て仕上げないといけないのですが・・・

話は変わって、周りの人から武者小路実篤の「友情」が面白いよと聞かされていたので実家に帰って父の書斎から借りてきて読みました。まあ書斎といっても形だけたくさん「日本の文学」だの「百科事典」だの並んでいて、父がそこで本を読む姿は見たこともないのですが一種のインテリアとして並べておいただけのようです。

その本として本来の役目を果たすことなく終わりそうになった物の中から私は武者小路実篤を救い出したわけです。開いてみた本はカビ臭く、巻末の発刊年数を見ると昭和40年。私よりも10年も年長です。ページを開くと長年封印されていた昭和40年の空気が出てきたように感じられました。

さて、作品の内容は「友情」というタイトルでありながら恋愛小説なのでした。上下に分かれており、それ程長くはない小説です。実は私、あまり恋愛物には興味がなかったので「なーんだ」と思いましたが、読んでみると確かに面白かったです。

作品の中身も面白かったのですが、私はどちらかというと技法のすごさに感心しました。まず出だしからいきなり主人公の野島が片思いの杉子を友人の大宮に奪われ、その二人が結婚してしまうというオチを言ってしまいます。それから野島の燃える片思いが続き上巻が終わります。その上巻の終わる直前の数ページで、普通恋愛物を書くとしたら一番ページを割いて書くであろう部分があっさり終わってしまいます。それは野島が杉子に結婚を申し込んで断られるシーンです。そして下巻は友人と杉子の手紙のやりとりで話が講談のように進みます。

この書き方が「友情」というタイトルの所以であると思いました。恋愛物だったら書き方の重点を置くところが違っていたでしょう。そしてこれを1920年頃に書かれたと思うと、あーすごいなーとただひたすら感心しました。まあここで色々言ってもわからないと思うので、読んだ事のない方は是非ご一読される事をお勧めします。

さて、日曜は小説の日です。前回の分は9/24に、それ以前のものは毎週日曜のブログに掲載してありますので参照してください。


                         正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第十三章 黒い目的

一夜明け、私は雄三氏に会って話を聞くために彼のアパートへと向かった。電話で済ませられる用件ではないし、いずれにせよ今後の打ち合わせもある。直接会って話した方が何かと都合が良い。表情から読みとれる何かがあるかも知れない。

アパートの前に着くと覆面パトカーらしい車が一台路肩に止まっていた。中では二人のスーツ姿の男性がイヤホンをつけて待機している。双方とも中年、もしくは私と同い年位という言い方ができるか。私は気づかぬ素振りでその脇を通り抜け、アパート前の駐車場にアリトを停めた。

これだけ面白いネタにマスコミが食いついて来ないはずはない。はずはないのだがアパートの前にマスコミ関係者らしい姿は人っ子一人いなかった。やはり警察に自粛を求められているのだろう。敦君が戻る場所は最終的にここしかないのだから、まずは戻って来易い環境を整えねばならない。もっとも彼らのことだ、どこに身を潜めているかはわからない。既に小山氏の隣の部屋を借り切ってさえいるのかも知れなかった。

部屋のドアをノックすると雄三氏が内側からドアを開け顔を出した。
「どうも。柿内法律事務所の柿内です。敦君の件でお話があるのですがお時間は大丈夫でしょうか?」
「えぇどうぞ。それでは中へ・・・」
気の抜けた返事。会うのは正式に仕事の依頼を受けた時以来だが、あの時より随分とやつれた印象を受けた。立て続けに色々と起こっているのだ。当然といえば当然である。

ただ小山氏のアパートを訪れたのは今回が初めてであった。確かに年頃の子供二人を抱えてそれぞれ部屋も用意しなければならない。となればそれなりに家賃もかかるだろう。雄三氏も今は何とか別の就職口を見つけて生活はできているようだが、正直かなり厳しいはずだ。その分築年数や立地が犠牲になり、端的に言えばボロい部屋だった。それにしても慰謝料の支払いが後どれ程残って大変なのかはわからないが、今回の依頼により相応の弁護料も払ってもらわないといけないのであるが・・・

部屋の中に招かれた私は台所を通り抜け奥の和室に通された。テレビや家具、必要最低限の物のみが残されたこざっぱりした部屋だ。隣室が子供達の部屋のようだ。敦君の部屋も軽く覗いてみたものの、ヤニ臭い部屋に辟易してそれ以上の好奇心は消え失せてしまった。どうせめぼしい物は警察に持って行かれているはずだ。敷かれた座布団の上に座り、私たちはテーブル越しに対峙した。
「度々人様にご迷惑をおかけしているようで何と申し上げて良いのやら・・・」
憔悴しきった感じの雄三氏はうつむきながら言った。
「あれから、敦君から連絡は何かありましたか?」
「いえ、何も・・・どこで何をしているのか・・・」
終始うつむき加減で雄三氏は応える。

「あ、何も出さずに・・・お茶でも・・・」
「いえ、おかまいなく」
立ち上がろうとする雄三氏を制して語を繋ぐ。
「警察にも既に聞かれているとは思いますが、敦君の逃走について心当たりは?」
「いえ、特に何も・・・」
気づいていないのか、それとも隠しているのか。雄三氏の口からは静香さんとの話は出て来なかった。

誰かに聞かれているような気がして、私は声を自然と潜めた。
「聞く所によると年に一度静香さんとお会いしているとか」
「私ですか?そうです。あいつとは時々顔を合わせています。まだ色々いざこざが残っているものですから」
「それが大体今くらいの時期だとか」
「どこでそれを・・・。はい、確かに毎年6月の第一週の土曜日に会う約束をしています。ですから明日の土曜に会う事になっていますが・・・」
多少驚いた様子は見て取れるものの、特段隠し立てしたつもりはない様子だった。

「敦君はそれに合わせて逃走したとは考えられないですか?」
「!?敦が一体何の目的で?」
「それは私にもわかりません。お父さんなら何かご存知かと」
「いいえ、私には皆目・・・」
手掛かりは得られず、か。逃走は単にチャンスがあったから実行しただけであって、その時期に関しては何の意味もないのだろうか?母親との面会を求めて、というのは考え過ぎなのだろうか?

「ちなみに面会場所はどちらに?」
「あぁ、駅前に大きなショッピングモールがあるでしょう?あそこの6階にある喫茶店です。エスタミネという名前です」
「そこに私も同席する事はできますか?」
「弁護士さんが?えぇ、構わないと思いますが・・・静香に確認してからでも構いませんか?」
「はい結構です。私はその場に敦君が現れると思っています。そして警察よりも早く見つけて彼に自主的に鑑別所に戻っていただきたい。その説得をしたいんです」
「説得でしたら私も」
「えぇ、勿論お願いします」
よし、これで準備は整った。後は明日を待つばかりだ。

ついでに、というわけではないが、私が引っかかっている部分を確認してみる事にした。
「ところで毎年静香さんとお会いしている理由というのが未だ慰謝料を払い続けているからということですが・・・あ、いや、これは今回の敦君の話とは関係ないのですが」
「そんな事まで・・・はい、その通りですが・・・」
気まずそうな返事が返る。
「蒸発した側が慰謝料を請求するっていうのも稀ですが、そんな毎年払い続けないといけない程の金額なんですか?」
「・・・」
雄三氏は言葉を詰まらせた。その奇妙な間が二人には随分と長く感じられた。