KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

歌うように

今「のだめカンタービレ」にはまっています(^^)私が少女漫画を読むなんて・・・と思っていましたが、テレビドラマで母がハマっていて私もついつい見てしまったのがきっかけでした。無茶苦茶面白い!それでも買うのはちょっと恥ずかしいので借りて読んでます(;^_^A

やっぱり作品を作り上げる上で重要なのはキャラ作りだなーと思いました。それぞれのキャラが立っているので読んでて飽きがこないんですよね。少年漫画であれ少女漫画であれ小説であれ関係なく必要なことであると再認識しました。

で、小説を書いていて実はそこが一番難しかったりするんですよね。うまくキャラが立てばシリーズものだってできるのですが、そこがプロと素人の差なのでしょう(T△T)

さて、今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください。

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                          正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第二十章 告白

裁判前の敦君に最後の面会を求めた。敦君はもうすっかり大人しく、観念したように俯いていた。

「あれからどうだい?」
「・・・」
様子を伺う私に気まずそうに返事をしなかった。

「今日は君に見てもらいたいものがあって」
「見てもらいたいもの?」
敦君が顔を上げて反応した。私はそれ以上説明せず、黙ってビデオデッキに持参したテープを差し込み再生ボタンを押した。一体何を見せようというのか、不思議な面持ちで敦君は黙っていた。

それは以前テレビで放送されたドキュメント番組であった。とある子供になかなか恵まれなかった夫婦にようやく子供が授かり、その出産シーンを映したものであった。

流れてくる映像を見ながら敦君は正に狐につままれたような顔をしていた。
「俺に何を見せたいわけ?」
「いいから黙って見ているんだ」
訝しげな表情で敦君は画面に映し出される映像を見つめていた。

いよいよ出産の日。妊婦は分娩室に運び込まれた。一緒に夫も分娩室へ入っていった。かなり苦しそうに呼吸する妊婦。その手をしっかりと握り励ましの言葉を贈るご主人。それに応える奥さんは期待と不安でいっぱいの顔をこわばらせながら、今からの出産に向けて誓いを新たにした。

ラマーズ法と呼ばれる有名な呼吸法で妊婦はその時を待った。最後の陣痛が起こる。呼吸はラマーズ法に合わなくなる。それでも必死に合わせようとする妊婦。荒くなる呼吸。苦しみのあまり声が上がる。やがてその声は段々と大きくなる。夫はしっかりと手を握り締め声をかけ続け、その痛みや苦しみを少しでも分かち合おうとする。分娩室にこだまする絶叫。それはおよそこの世の痛みの中で一番大きくて尊いものかも知れない。男の我々には計り知れない痛みであった。

やがてこの世に一つの生命が顔を出す。分娩室には新しい声が生まれる。汗まみれの奥さんの顔から笑みが零れる。番組のBGMが盛り上げる必要のない程奇跡的な瞬間であった・・・

横を向くと敦君はすっかり画面に釘付けになっていた。目には涙が浮かんでいるようにも見える。番組の終わったビデオを止めて感想を聞いてみた。
「どうだった?」
「どうだったって・・・」
「こんなシーンを見たのは初めてかい?」
「初めて」
「どうだった?」
改めて聞き直す。彼がどう感じたかを是非とも聞いておきたかった。

「すげえと思った」
「何が?」
「何がって・・・何というか・・・言葉で上手く言えないけど、とにかくすげえと思った」
「人間が生まれるというのはどういうことかわかったかい?これだけのエネルギーが要る事なんだ。産みの苦しみという言葉の意味が少しはわかったと思う」
「あぁ」
「私だって自分の娘が産まれる時まで実際にこんなにすごいとは思わなかった。実際に現場に立ち会うともっとその凄さを感じると思う。」
「・・・」
「人間が生まれるってすごい事なんだ。場合によっては母体の命を奪う事だってある。あれを見たらわかるだろう?」
「そんな思いをして娘を産んだのに母子共々俺は殺してしまった。その事をわからせようって事か?」
「それもある。君は取り返しのつかない事をしてしまったんだ。きっと幸恵さんは来未ちゃんを死んでも守りたかったんじゃないかなぁ。天国に来未ちゃんがついてきてしまった事に対してひどく悔しい思いをしているんじゃないかな」
「・・・」

「私もね、昔妻と娘を殺されたんだよ。丁度君のような少年にね」
ずっと黙っておこうと思っていたがやはり言わずにはいられなかった。
「これが当時の事件を報じた新聞の切り抜き。私はこんな事で新聞に名前が載るなんて想像もできなかったよ。少年の方は名前も出ないのになぁ」
私の暗い過去を。
「何でこんな事になったんだ?私たちはごく普通にごく普通の家庭を作ろうとしただけなのに・・・何故なんだ?」
思い出したくはないのに忘れることのできない過去を。

気がつくと私は立ち上がって敦君の両肩を掴んでいた。彼は面食らったような顔をしていた。

また悪い虫が私の中から這い上がって来てしまった。ここで敦君を責めたって仕方ないのに。わかっていながらも私はそれを抑える事ができなかった。今回ビデオを見せようと思ったのもそのためじゃない。

私は勝手に一つの使命感を抱いていた。それは原告である若葉さんの代弁者たろうとすることだ。原告である彼は敦君に直接メッセージをぶつける機会がない。裁判になって傍聴席で初めて仇をと出会う事ができるのだ。私はメッセンジャーとして代理人として敦君にその無念さを伝えなければいけない。

いや、それはかなり私に都合の良い解釈だ。今の私は単なる八つ当たりをしているに過ぎないのだ。自分ではわかっていた。敦君は俯いたまま黙ってそれを聞いていた。