今週のお題「2012年、どんな年だった?」
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3ヶ月以内投資判断 「中立」
買いのタイミング 270円辺りの押し目を拾うか、2月上旬の決算前
3ヶ月以内株価予想 260円〜320円
要点
・下半期苦戦が想定され会社計画は前期からほぼ横ばい。ただし利益計画はやや保守的か。
・テクニカル的には短期過熱感も。需給は良いので上昇トレンドは持続。新規買いは押し目買い戦略が有効か。
・同業他社比では財務面にやや難があるも、利益率などでは割安感。
・海外展開加速は至上命題であり実際に同社は他の大手ゼネコンに比べて進んでいるが、カントリーリスクなどに留意すべき。
【企業概要】
スーパーゼネコンの一社。アジアなどの海外での不動産開発にも力点。売上の半分が建築で、土木は2割程。
【業績】
前期は大幅な増収増益。震災後の建設抑制の反動から復調。復興需要を取り込む形で営業利益は7割増となったものの、海底シールド事故などの特損を計上したことで最終利益は大幅な減益を余儀なくされた。
今期は減収増益で、ほぼ前期と同水準の数字確保を見込む。中間期の段階では増収増益で営業利益進捗率も58%と例年通り順調。海外売上高は今期14.6%と前期の13.9%から増加し、海外事業は大幅な増益見通し。
受注も前期は12%程度だった海外受注高を今期17%まで高める見込み。東南アジアを中心に、日系メーカーの工場建設や現地公共施設などの大型案件を獲得している。
ただし国内の受注高が前期比で2割以上減。前期に大型案件を獲得した反動が出ている格好。また下半期に不採算工事が集中することもあり、下半期の見方は総じて厳しい。
ただ、足元ではトンネル崩落事故などをきっかけに、高速道路の老朽化に対するインフラ需要期待がにわかに盛り上がってきた。老朽化整備には10年間でトータル3兆円の需要があるとされ、先細りと見られる国内公共投資に対し明るさが見られる状況にも。その他洋上風力発電施設施工を手がけるなど、新エネルギー関連にも力を入れる。
13年3月第三四半期予想(KA.Blog)単位:百万円
売上 1022400
営業利益 26000
経常利益 32000
当期純益 19000
下半期の苦戦は十分織り込まれて作成された計画のため、会社計画達成には概ね問題がないと思われる。また利益面においても保守的と考えられ、上ブレが期待されそう。
有利子負債は5214.7億円で前期から42.4億円減少
有利子負債比率(有利子負債÷自己資本)は199.8%
現預金は1358.5億円
流動比率(流動資産÷流動負債 ×100)は103.5%で前期の103.1%とほぼ横ばい。
財務状況はあまり良くなく、大手ゼネコンの中では有利子負債比率が高い。流動比率もかろうじて前期水準を維持。
フリーキャッシュフローは前期末189.9億円の赤字。
前期より仕入れ債務が減少したことなどにより営業キャッシュフローが赤字に。それによって赤字幅が拡大した。
粗利率は8.5%で、前期の8.5%との比較ではほぼ横ばい。
予想ROAは2.2%で、前期末の2.5%からやや悪化。
前期は違約金収入など一過性の営業外収益が発生したため、今期は経常利益がその分減少見込み。ただ中間期時点では増益ペースで来ているので、会社計画ほどの落ち込みはなさそう。
ファイナンスに関しては財務面があまり良くないため、一定量は行われる可能性を念頭に置いておくべき。ただし目先行われる可能性は低いと見られる。
【中間決算後の各アナリスト評価】
クレディスイス証券 投資判断「アンダーパフォーム」 目標株価230円
メリルリンチ日本証券 投資判断「買い」 目標株価315円
第2次安倍内閣は公共事業の増加を柱とする経済政策で景気回復を早めると指摘。その恩恵を受ける銘柄として、同社を含む大手建設会社の投資判断を引き上げ。
野村證券 投資判断「Neutral」 目標株価240円
アナリストの評価はマチマチ。最近の新政権誕生による建設株買いにより過剰に買われ過ぎているという見方と、むしろこれから買われるだろうという見解が交錯している格好。
【理論株価】
買収価値を示すEV(時価総額−現預金+有利子負債)は6911.9億円。今期予想EBITDA(営業利益+減価償却費)は473億円であり、結果 EV/EBITDA倍率は14.6倍となる。同業他社の平均値がおよそ17.0倍と見立てられるが、それらを元に計算した理論株価は395円となり、現状の株価は事業価値分析上は割安と捉えられる。
【株価推移】
不動産バブル崩壊後のゼネコン株は09年11月まで下落を続けて162円の安値を付けたが、その後は緩やかに下値を切り上げる展開に。11年の震災発生後は復興需要の取り込み期待から一時大きく値を上げたが、その後調整。しかし足元では新政権による建設株買いから、再度その高値水準まで値を戻してきている。
【テクニカル】
11月の衆院解散宣言後は特に自民復権に対する期待感から建設株が買われたことを背景に、200日線までの移動平均線を一気に上抜いてトレンド転換。選挙結果を受けて出来高を伴いながら250円台を上放れると、そのまま300円を伺う上値追いの流れとなっている。
震災直後の高値は上回ってきたため、09年11月安値を起点とした長期上昇トレンドは継続しているものと見られる。上値の節は心理的節目の300円や09年高値321円が挙げられる。
MACDやパラボリックが好転し、一目均衡表も三役好転の形となっていることで上昇トレンドは確定的な流れ。ただ300円が接近していることや、震災直後以来200日線や75日線との乖離率が25%を越えてきており、過熱感が出ているのも確か。
ボリンジャーバンド+2σに沿った上昇が続いている一方でストキャスは高値暗転。週足で見ても各指標はほぼ同じような雰囲気。一旦は押し目を待つ戦略が妥当だろう。11月安値の200円から300円までの1/3押し辺りが狙い目か。
【需給】
震災後の高値を上回ってきたことで、09年7月以来約3年半ぶりの高値水準となっていることから、上値のしこりは感じないレベル。特に震災直後に大きく買われ出来高を伴って大陰線を付けてきたが、その最多価格帯である寄り付き284円を上回ってきたことから、需給は総じて良い流れ。
信用買い残は差し引き780万株で10月以降増加傾向にあるが、日々の出来高では十分こなせるレベルであり特に大きな心配は必要なさそう。
去年は5月が最も買い残の多い時期だったが、11月にかけて信用期日到来から減少した経緯があり、今はそのサイクルで再度買いが増えるタイミング。そう考えると、これから先信用買い残を集めて一段の株高を醸成する可能性は十分考えられる。
また、同社の大株主を見てみると「OD05・オムニバス」が2.2%の株式を保有している。今後中国の経済動向次第では保有拡大・縮小に向いてくる可能性があり、彼らの動向には注意が必要である。
【同業他社比較】
同社の予想PERは16.1倍、PBRは1.1倍
今期予想営業利益率は2.1%、予想ROEは7.2%
配当利回りは1.7%
同業他社と比較すると、それぞれどのような位置付けだろうか。
清水建設(1803)
大手ゼネコン。首都圏・民間建築が主力で、海外の比率は1割未満。
予想PERは47.0倍、PBRは0.9倍
今期予想営業利益率は1.0%、予想ROEは1.8%
有利子負債比率は116.9%
予想配当利回りは2.1%
利益率は同社に大きく劣るため、結果株式価値もやや割高な印象。ただし財務的にはマシで、配当利回りも高い。
大成建設(1801)
大手ゼネコン。売上のうち建築が65%、土木が25%を占める。
予想PERは28.1倍、PBRは1.2倍
今期予想営業利益率は3.0%、予想ROEは4.1%
有利子負債比率は137.4%
予想配当利回りは1.7%
株式的には若干同社よりも買われている印象ではあるものの、営業利益率では上回る見込み。財務面でも優勢。
大林組(1802)
大手ゼネコン。首都圏の都市開発や海外進出に積極的。建設がほとんど。
予想PERは29.7倍、PBRは1.1倍
今期予想営業利益率は2.4%、予想ROEは3.7%
有利子負債比率は124.4%
予想配当利回りは1.6%
株式的には同社よりも買われ過ぎな印象。勝っている面は財務面くらいか。
竹中工務店(非上場)
400年の歴史を持つ大手ゼネコン。
前期営業利益率は1.1%、ROEは0.7%
有利子負債比率は217.4%
配当は一株40円で配当性向は128.9%
非上場企業のため今期見通しなどがなく参考。利益率などの指標は総じて悪いが、配当性向は同社の27.8%などに比べて高い(非上場であり同族系企業であるため、配当は高い傾向。また配当水準も維持されやすいことから、純利益が低い時には高い配当性向になる。結果、前期は特に高くなった)。
同業他社との比較では、やや割安な印象を受ける。ただ大手ゼネコンは全体的にPBRが1倍以上買われているため、他の業態との比較では相対的な割高感も。
【課題】
海外展開の積極化は、将来的に低迷が予想される国内需要の代替策として不可避。東南アジアなどの新興国では特に成長率を維持するために今後インフラ投資需要が高く、海外からの資本が入ってくることで、急速な発展が期待されるドル箱でもある。
ただ一方で、新興国と対する際には注意点も多い。例えばかつて同社がアルジェリアで高速道路を受注した際に、同国側の設計の問題、資材調達や通関に時間を要すること、テロ対策による爆薬の利用制限などで工事が難航。予定通り進捗しない工事に対し、同国が完成している部分の代金の支払を拒絶。国際問題に発展した。
こういったカントリーリスクも内在しているため、海外進出に際しては、地域特性などを見極めて慎重に判断する必要がある。
また、足元では震災復興の需要はあるが、一方で人件費の高騰が利益率を圧迫している。外注などを上手く活用し、人材を流動的に配置できるような体制を作りつつ、また若手の技術者を育成するような多面的な人事が必要であろう。
これらの課題に対応するために、他の大手ゼネコンとの経営統合も視野に入れておきたい。例えば同じような懸念から、パワービルダー6社の経営統合、大和ハウス(1925)による準大手ゼネコンフジタの買収、間組(1719)と安藤建設(1816)の合併も記憶に新しい。更なるスケールメリットを生かすためにも、非同族会社の大成建設や、他の海外ゼネコンとの協調も考えるべきだろう。
※株式投資は自己責任でお願いします。文中の内容は現時点で予測できる範囲で想定されたものであり、正確性や投資成果を保証するものではありません。