KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

あれあれ?

えーと、確かこの小説を書き始めた時には「全20回位で前回の小説よりは短くなる」と書いたのですが、結果的に前回の小説を上回る回数、そして当然文字数も全然上回ることになってしまいました(-。−;)全30回位になりそうな感じです。予めご了承ください。

本当は短編小説に仕上げたかったんですけどね。例えば本にしたら大した長さじゃないんですけど、画面で見るには長いですよね。しかもブログで一週間に一度公表するという手法ですから、はっきり言ってよっぽど興味のある人じゃないと毎週読んでくれないじゃないですか。そして普段から文章の長い私のブログを益々助長させる一因になって、益々見辛いブログのレッテルを貼られそうで(・・;)

それでも書き始めると面白くなってきて「こうしてあーして・・・」などとやっている間にどんどん伸びていき、やがて私生活の時間まで割いてしまって苦しむのは私なのです。わかっちゃいるけど止められないって感じで(;^_^A

そんな小説もいよいよ佳境には入ってきています。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください(リンク先の画面上部「前のページ」で過去の作品に遡れます)。

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そしてまた例によって来週の小説はお休みしますので予めご了承ください。

                       正義のみかた


※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第二十六章 白旗は揚げない

証言台に立った雄三氏は胸を張っているようにすら見えた。一般人で裁判慣れしている人なんてまずいないだろう。普通の人生を過ごせば裁判の当事者になることも少ない。だから「裁判と結婚式だけは止めておけ」とはよく言われる程にその下準備は忙しく、いくら弁護士に任せているとはいえ心労も半端なものではない。特にこれだけ世間を騒がせた事件だ。倒れてもおかしくないくらいである。周囲の耳目を集める中、決して背中を丸めたり萎縮した姿を見せようとしない雄三氏の毅然たる態度は開き直っているようにすら見え、逆に若葉さんの心証を傷つける事になるかも知れない。しかしそこには例え全世界の人々に危害を加え、憎まれる事になったとしても我が子の唯一の味方になろうとする父親の姿があった。

まずは形式的に私が問いかけた。
「証人小山さんと被告との関係は?」
「被告の父親です」
「被告は幼少期どのように過ごしていたのですか?」
「子供の頃から生き物を大切にし、親の言う事も素直に聞く良い子です。親の気持ちも理解してくれる良い子です。それを私たち夫婦が傷つけてしまったのです」
証言の内容、裁判の方向性は既に打ち合わせてあった。打ち合わせといっても何も嘘を言わせようとしているわけではない。私の質問に真実を答えてください、と言っただけである。

「傷つけてしまったとは?具体的に」
「敦が、いえ、被告が小学2年生の頃に私たちは離婚しました。それまで子供達には大変不幸な思いをさせてしまいました。私たちの不仲、それによる八つ当たりを肉体的にも精神的にも受けていたのです。それらに抵抗する力のない子供達の抑圧された感情が今回の悲惨な事件を生み出してしまったのです」
「小山さん夫妻が不仲だったという原因は何か特別な事情があるのですか?」
「丁度当時私が以前の会社をリストラされ、家族に金銭的にも精神的にも不安を覚えさせてしまったのが一因です。そしてもう一つは・・・」
一瞬横目で雄三氏が私の表情を伺った。この期に及んで発言をためらう事は決して勇気がないと責められる事ではない。後は背中を少し押してもらいたいだけの事だ。私は目で先の発言を促した。

「私の浮気です」
その瞬間の敦君の表情を私は見ていない。見ないようにしたという言い方が正しいかも知れない。ただ敦君の心に大きな石を投げ込んで大きな波を起こしたことは疑いようもなかった。

「私の浮気が原因で別れた妻にも、そして結果的に子供達にも大きな負担をかけました。妻には継続的に慰謝料を支払うことで法的には決済していますが、子供達には何も報いることができない。その結果、今回のように人の道を誤らせることになったのは、ひとえに私が父親として失格しているからに過ぎません。そんな私ですが、敦が自分の犯した罪を理解し、反省し、消化して社会に戻ってきましたら、父親である私の指導、監督の下、二度と人様にご迷惑をおかけしないよう致しますので、何とぞ早期社会復帰の機会を与えてくださいますようお願い致します」

そう言うと再び裁判官に一礼し、そのまま振り返って傍聴席中央に座る若葉和明さん、そして彼が手に持つその遺影に深々と頭を下げ続けた。私が「弁護側の証人尋問は以上です」と言い終わる前に突如怒声が被さった。

「ふざけるな!!」
怒声が上がったのは傍聴席からだった。たまりかねた若葉さんの怒りの叫びだった。
「なんでお前のところの家庭の問題でうちの家族が犠牲にならなけりゃいけなかったんだ!何が反省だ!何が二度と人様にご迷惑をおかけしないように致します、だ!幸恵、来未に二度はないんだぞ!!」

立ち上がって叫ぶ若葉さんに警備員が駆け寄りなだめる。
「来未にはな、輝かしい未来が待っているように来未って名付けたんだ!それが何だ!わずか3年、この世に生を受けて3年で、何もわからないままお前の息子に殺されたんだぞ!!来未の時間はそこで止められたんだ!!なんで、なんで・・・」
最後は涙声に変わった若葉さんは崩れるように力が抜け、再び席に着くとそのままうなだれ、小刻みに肩を揺らした。若葉さんの怒声が止むと法廷は耳が痛くなる程シンと静まりかえった。余りにも原告が動揺し、裁判の進行を妨げるようなら裁判長の権限で退廷を命ずる事もできる。しかし裁判官だって人の子だ。良心的にそこまでには至らなかった。

本当は証人の退廷こそ命じて事態を悪化させないようにしたかったかも知れない。しかしまだ検察側の尋問も残っているので退廷を命じるわけにはいかなかった。雄三氏は真っ赤な目で顔を上げると、証言台に向き直った。背筋は尚も真っ直ぐ伸びていた。

「続いて検察側の反対尋問」
美方氏が証言台の横までやってきた。一つ小さく咳払いをすると、静寂を打ち破るような明瞭な声で尋問を開始した。
「先ほどの証言の最後にあなたは『指導・監督の下二度と人様にご迷惑をおかけしないように』と言われましたが、逆に言いますと今まで指導・監督をしっかりとしてこなかったという風に取れますが?」
「いえ、そういうつもりはないのですが。男手一つで育てていこうと決心した以上、片親だからといって教育にぬかりのないように・・・ただ結果的には私の至らぬばっかりにこのような形になってしまったと思っています」
「では今後被告が再びあなたの庇護下に入ったとして、同じ過ちを犯さないように更生できるという根拠は何かあるのですか?」
「根拠と言われましても・・・ただ私は私の子供を信じています。きっと立ち直らせてみせます」
「口では何とでも言えるでしょう。既にあなたは失敗しているのですよ?それで世間に申し訳が立つのですか?」
「・・・」
辛辣な言葉が続く。どんなに強固な意志をもって今後再起を図ろうとも、体系的にも偉丈夫と言って良い美方氏の言葉と威圧には屈してしまうだろう。特に雄三氏は弱い立場であるから尚更だ。

「裁判長、誘導尋問です。検察側の尋問は同じ内容の繰り返し、明らかに度を過ぎています」
「却下します」
ここは一つ間を取るためにも抵抗を試みたが失敗に終わった。美方氏の鋭い視線が私に向けられた。私はそれを見返した。今日初めて美方氏の目をまともに見たかも知れない。しかし必死に戦っている被告、その父親を見て、弁護士である私が引き下がる訳にはいかなかった。