KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

備えあれば

今日は地元北陸で大変大きな地震があり、朝からビックリさせられました(××)東京も少し揺れていましたからね。すぐ富山の母に安否の問い合わせメールを送ったら「大丈夫」と返信があり、ホッと一安心でしたが、石川の方では大勢の方が被害に遭われているようで安否が気遣われます。少しでも被害が小さければ良いのですが(・・;)

北陸は天災が少ないので、今回のような大きな地震は少なくとも私の人生では初めてです。電話は早速繋がらなくなったようで、離れて暮らしている家族は連絡が付かなかったら不安で仕方ないですね。余震も未だ続いているようです(・・;)

災害伝言ダイヤルですとか、やっぱり使い方を今のうちにしっかりと覚えておかないといけないですね。後、防災グッズも備えておかないと。石川の方ではガスが使えないとかで苦労されているようです。備えあれば憂い無しですね。

そして備えと言えば小説に関してはなかなか備えることができず、後半は原稿書きに苦労しましたが、ようやく佳境に入って来ています。何とか来月中には終わりそうで、ようやく肩の荷が降ろせそうです。連載期間が約10ヶ月の長編になってしまいましたが、最初から最後までお付き合いいただけた方が一人でもおられるのかどうか甚だ不安でもあります(;^_^A

さて、今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください(リンク先の画面上部「前のページ」で過去の作品に遡れます)。

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                          正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第三十章 白けた法廷

多分どちらの敦君の言葉も嘘ではない。しかし裁判とはこういうものだ。どちらが理路整然と第三者を納得させられるカードを見せられるか。自分の中で気持ちの整理がつかないうちに反論されると「あの時自分は本当は殺意を持っていたのではないだろうか?」という気にすらさせられる。冤罪で捕まった人が厳しい取り調べによって精神を摩耗し、「嘘の」自白をしてしまうという事は多々ある例だ。

「それは・・・」
敦君が言いよどんだ。私は机の上で両手をがっちり組み合わせて証言台の敦君を見つめていた。ここが正念場だ!念を送ってはみるものの、何ら効果があるとも思えなかった。元々私が殺意の有無に関して質問した時点で「証明は難しい」と言っていたのだ。有効な反論が出てくる可能性は低かった。

「もし断じて違うと言うのであればどうぞ反論してください。若葉幸恵さんの跡を付けて行ったという事は、彼女に対する何らかの感情がそこにはあったはずです。それは好意では決してなく、怒りに近い感情であったものと思われます。その中に一片の殺意もなかったとどうして言い切れましょう」
敦君はついに俯いてしまった。有効に反論できるようなカードを持ち出せなかったのだ。額には汗がにじみ出て、苦悶に近い表情すら見せていた。「違う、そんなんじゃない!」と叫びたいのかも知れない。しかしいくら言葉では否定してみせても、明確な裏付けが得られないままでは何の効果もない。敦君もそれはわかっていた。

「以上で検察側の質問を終了します」
あっさりと幕が引かれ、敦君は証言台で俯いたままだった。ようやく護送の係官に促され、引き擦られるように証言台を降りる。自分の表現力の乏しさに後ろ髪を引かれる思いだったに違いない。まるで地に足が付かないように被告席へと戻っていた。

状況は不利のまま、いよいよ弁論手続の段に入った。まずは検察側の論告求刑からだ。
形式通り公判前整理手続と同じ内容が求刑される。「・・・であります。被告は過去に幾度となく補導歴もあり、ましてや鑑別所から逃走も計っています。再犯の可能性は極めて高いと判断するのが妥当です。よって我々が求めるのは刑法第199条殺人罪を犯した事による無期懲役刑求刑であります」

美方氏の演説はここで終わると思っていた。私は次に回ってくる出番に備えて原稿をまとめていたその時、続けて発せられた美方氏の言葉に落雷に近い衝撃を受けた。
「かつて同じような事件がありました。それは7年前に起きた柿内さん母子殺人事件という不幸な事件でした」
美方氏が横目でこちらの様子を伺う。

来た。ここに至るまで散々自分の中でこのような展開をシミュレートしてきたが、どうしても高まる鼓動は抑えきれなかった。にわかに傍聴席がざわめく。裁判長が「静粛に」と呼びかける。傍聴席の”観客”にとっては面白い場面展開であろう。特段それを責めるつもりはなかったが。

「あの時、私も担当検事として原告の無念を晴らす一助を担わせていただきました。その時の判決は今回の事件の判例として有効かと思います。以上です、裁判長」
そんな事を一々言わなくとも裁判官も十分承知の事だ。過去の判例は次なる事件に応用されるのが裁判の常だ。それなのにわざわざ発言した、その目的は私に対する揺さぶりと同時に強い宣戦布告の表れでもあった。

「裁判長」
手を挙げて発言を求める。
「弁護側、どうぞ」
裁判長も心の中では何と思っているのやら。黒衣のせいで、その腹の内は余計にわからなく思えた。

「確かにあの事件の判例は私も十分承知しております。事件、裁判の経緯までしっかりと。しかし今回の事件は動機も異なり、状況も被告の定性的な性格も当然ながら異なります。過去にあった猟奇的で忌まわしい犯罪とは安易に同一視されないようお願い致します」
再度傍聴席がざわつく。冷然と言い放つ私が意外に受け止められたのか、それとも挑発に対する攻防に興味をそそられたのか。「静粛に!」裁判長が一段声を上げた。当の美方氏は当然返ってくると予想された反応に表情一つ変えなかった。憎らしいくらいである。

宣戦布告に対するこれが私の応えであった。悔しいが無視はできなかった。美方氏の先制パンチは一方で私に対する一種の呼びかけであったようにも聞こえたからだ。「お前は自分に正直か?」「あの事件の悲惨さを忘れてしまったのか?」私の自問自答を具現化した存在、それが美方氏であると思う・・・と言うのは美方氏に対して失礼だろうか?

加えてこういう呼びかけのようにも聞こえた。すなわち「プロの弁護士ならプロらしく、一切の私情を投げ打って全力でぶつかって来い」と。以前熊さんからも指摘されたように、私自身は無理矢理にでも意識しないように務めてはいるつもりなのだが、周りから見ればそれが余計に違和感を増長させているらしい。まだまだ青いなと思う。今回の裁判も美方氏から見れば「手を抜いている」と映っているのかも知れなかった。

そう思うと一段と気が引き締まった。弁護士としての本分を忘れてはならない。日本国民であれば万人に与えられた必要最低限の権利は守られなければならない。私の反応を見て美方氏はどう考えているのだろうか?きっと彼は満足しているに違いないと思った。美方氏は私を、私は美方氏を十分に理解しているはずだった。

「では弁護側の最終弁論」
私は手に原稿を持ちながら立ち上がったが、すぐにその原稿を机の上に置いて目線を上げた。

「まず始めに、私は被告の弁護をするつもりはありません」

一瞬法廷内の空気が凍り付いた。その後、氷解すると共に溢れ出したざわめきは一段と大きなものになった。「静粛に!!」三度ざわついた傍聴席に向かって裁判長は木槌を叩きながら怒鳴り声に近い声を上げた。敦君が不安そうな目を私に向けていた。