KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

今日のところは

更新時間締め切りがギリギリに迫っているため、前フリなしで小説に移りたいと思います。折角エイプリルフールなのに、今世紀最大の嘘を付くこともできませんでした。もっとも締め切りが迫っているからという言い訳が嘘かも知れないのですが(-。−;)

今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください(リンク先の画面上部「前のページ」で過去の作品に遡れます)。

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                          正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第三十一章 黒炭の中で燻り続ける炎

「それは弁護側は最終弁論の責務を放棄するということですか?」
裁判長が問いかけた。仕事を途中で放棄するというのはどこのプロの世界でも有り得ないことだ。まして法曹界で裁判中に弁護を放棄する弁護士というのは前代未聞の話である。同じ弁護団の連中も驚きの視線を私に投げかける。

「いえ、誤解を招くような発言をして申し訳ありませんでした。私が申し上げたかったのは一般的に使われている弁護、すなわち被告の利益になるように主張をしたり、かばったり、適正な刑法上の量刑を希求するということではなく、事件の当事者が等しく裁判の結果に満足できるような、公正に、かつ相対的ではなく絶対的に判断を下していただきたいということです」
やや白けた雰囲気が法廷内を包んだように感じ取れた。なんだ、結局は言い方を変えただけで、こいつの弁護をするんじゃないか。

しかし今の私の発言に嘘はなかった。弁護という枠に囚われず、事件に関わる当事者の誰しもが納得できるような、適正な量刑を判断して欲しかったのだ。そしてそこに私の事件の判例などを持ち出して欲しくはなかった。それは感情的な部分で否定しているのではない。私はあの裁判をもう一度やり直したいのだ。もう一度やり直して、私が相手方に立ってその限りを尽くし、それでも尚あの判例が適正だったのかどうかを私なりに判断したかったのだ。

「では続けてください」
裁判長に促され、私は無言で肯いた。美方氏は腕を組んで目を閉じていた。

「被告の犯してしまった罪は重く、社会道義上決して許されるものではありません。皆等しく幸せな家庭を持つ権利があるのです。何人たりともそれを侵害する事は許されない。それを土足で踏みにじった被告には自分の犯した罪を深く反省し、遺族にできる限りの償いをしなければならない」
チラッと横目で敦君を見た。敦君は両手を握りしめ、硬い表情で聞き入っていた。

「私も丁度数年前に同じような事件の被害者となりました。その事は周知の事かと思いますが、その立場から言わせてもらいますと、今でも犯人は憎い。憎くて仕方がない。思いつく限りどのような合法、非合法な手段を用いてでも復讐したい、それが本音です」
今度は傍聴席の「観客」も皆落ち着いて聞いてくれていた。原告である若葉さんもジッと私を見つめていたが、その表情はどういう状態を保持していれば良いのか自分でもわからないようだった。

「それは被告がどういう状態になろうと変わらないのです。仇を討ちたい。それがせめてもの弔いだと思うのが遺族の心情です。だから裁判を起こして戦う。しかしその仇を討つという行為は、結局自己満足でしかないという事に気付かされる。どんなに被告が5年、10年と牢屋に入れられても、あるいは死刑になったとしても、それが終わった後には何も残らないのです。そして社会的には彼は犯した罪を償ったことになるかも知れません」

「あれは法廷侮辱ではないのですか?詰まるところこの裁判には何の意味もないと言っているのと同じじゃないですか。裁判長に訴えましょうよ」
「黙って聞け」
美方氏の斜め後ろに控えていた若い検事の囁きに対し、美方氏は私を見据えたまま応じていた。それに気付いた私は美方氏に感謝した。

「何も残らないばかりか、虚しさだけが残ります。結局家族は戻って来ないのですから。何をやってももう戻らない」
頭の中には洋子と梓の顔が浮かんだ。忘れるはずもない。戻ってこないから余計に忘れられないのだ。

「私は減刑を要求するわけではありませんが、被告の刑期を1年、2年でも良いから短縮していただきたいと思います。それは逆に彼にとって辛い道であるはずです。刑務所で暮らしていれば、少なくとも年を経る毎にある程度罪の意識を昇華できてしまうでしょう。自分はここでこうして刑罰を粛々と受けている。だから刑期が終われば自分は社会に出てリセットされた人生を歩めるのだと」
一つ呼吸をして、私は続けた。

「そして実は一方で私は刑罰よりも重い負担を被告に課して欲しいと要求しているのです。少年刑務所で彼は生の家庭、家族といったグループに接する事はできません。それでは彼は気付けないままです。すなわち一刻も早く社会に復帰し、自分の壊した家庭、家族という大切なものの重大さに気付いてもらいたいのです。そしてその罪の認識によって彼に強烈な自責の念を呼び起こして欲しいのです」
声が段々大きくなってきている事に自分でも気づいていた。しかし熱っぽさを抑える事はできなかった。

「彼はまだ自分の壊したものの大きさを理解できていない。それは単に二人の命を奪っただけではないという事を認識してもらわないといけないのです。人は生きている以上、色々な人との結びつきがある。その人の結びつきを破壊してしまった。二人が生きていた今までの人生で出会った様々な人々の思い出までも破壊してしまった。そして未来も破壊してしまった。それらに気付いてもらうためには監獄では不十分です」
法廷内はシンと静まりかえっていた。有り難い。このまま最後まで続けさせてもらう。

「彼はその生い立ちにおいて、その事に気づく重要な場面を逃してしまっているのです。彼はまだ若い。それを気づかせるチャンスはまだ十分残っています。私は早々に社会復帰し、社会の中で生活することによる罪の償い、つまり人と人との繋がりの深さを思い知るという刑罰を受けて欲しいと考えています」
喋り終えて、喉が急にカラカラになっている事に気付いた。二、三度咳をして喉の調子を整える。

「以上で弁論を終了します」
これらを聞いて若葉さんはどう考えているのだろうか?私の思いは伝わっただろうか?これは結局単なる私のエゴで終わるのかも知れない。しかし私は、奇妙な言い方であるが、同じ立場の先輩として、できる限り若葉さんの力にもなりたかった。若葉さんがもし今私の言った事に賛同してくれなかったとしても、後できっとわかってくれると信じていた。詭弁と言われるかも知れない。偽善者と言われるかも知れない。しかし少なくともその気持ちに嘘はなかった。他人に何と思われても良い。これが私なりの正義を貫くということだった。