KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

何とか

いやー、半年に渡って書いてきた小説もようやく無事最終稿に辿り着きました。長く険しい道のりでした・・・というのは言い過ぎですが(;^_^A

今回の話は私の処女作ということで、不慣れなために随分と問題点がたくさんあり、それなりに四苦八苦して仕上げました。

まあ今日のところはあまり前置きをしないで、あとがきみたいなものに関しては来週また書く事とします。とりあえずは結末の程を読んでやってください。

というわけで、毎週日曜は小説の日です。今まで読んでない方はいきなり結末を読んでもアレなので、毎週日曜のブログを見てやってください。


                       台風一過

第二十六節 嵐の後の静けさ

藍がいれば太陽だっていらないと思った。You're my sunshine.陳腐な台詞だ。しかし実際に共感する人が多いからこそ陳腐にもなる。藍の方はどう思っていただろうか?

私は太陽以上の物を失った。喪失感が全身を襲い、私はただただ無気力だった。鏡に映った自分の顔を見たとしたらどんな表情だろうか?疲れ切った顔?無表情?それとも薄く笑っている?

よろめきながら何とか立ち上がる。部屋の中に戻ろうとする。その時突然両手両足を何者かに押さえつけられた!一瞬何が起こったのかわからない。驚きながら手足を見下ろしてみると、何人分もの手が私の体を押さえつけている!手の種類、色は様々で、肌色の手、血管が透き通る程白い手、炭のように黒い手、しわがれた手、細い手、指の太い手・・・

わけがわからないまましばらく藻掻く。藻掻きつづける。それしかできない。ついには口元も押さえられ息苦しくなる。鼻で何とか呼吸する。その間にもあがき続けると、急に私を押さえつけていた手達はふっと消えた。

何とか自由になった。すると今度はキーンというような耳鳴りが私を襲う。飛行機に乗っている時のような、新幹線でトンネルに入った時のような・・・いや、それよりももっと不愉快だ。そんな耳が平常に機能しない中、遠くから誰かの笑い声のようなものが聞こえる。しかしそれが私を不愉快にしているのではない。超音波のような、ガラスを擦る音のような背筋をゾッとさせるような奇怪な音が私を追いつめる。

と思ったら今度は寒い。凍えるような寒さだ。震えが止まらない。一体さっきから何なんだ?寒いくせに喉は渇く。水が飲みたくなり蛇口を回す。今度はまさか蛇口をひねると血でも流れ出てくるか?・・・畜生、本当に出てきやがった。赤黒い液体が蛇口から流れ出る。今更驚きはしない。心の準備があったというわけではない。驚く余裕も心の隙間もなかったのだ。

荒くなった呼吸を落ち着かせようと努力しながらも必死に置かれた状況について考えてみる。しかし理解ができるはずもない。藍を刺し殺した瞬間に別世界に連れていかれたということか?いや、何故?論理的に結論が出るわけもない。そもそも頭がうまく働かない。このような状況下で集中力が散漫になるのも当然だが。しかも肉体的にも、精神的にも疲れている。・・・そうか。自分は疲れているんだな。

いや、疲れとかストレスとか、そんな紋切り型の原因ではなさそうだ。疲れやストレスで手や血が突然出てくるか?それじゃ何だ?現実的に考えて一番理解できる答え。それは自分の頭がおかしくなったということだ。つまりウィルスに感染してしまったということ。あぁ、遂に自分もか・・・。悲壮感というよりは諦めに似た気持ちだった。藍のウィルスが私に感染したのだろう。それとも今回の台風がまた新たなウィルスを運んで来たのだろうか?

いや、そんな事は最早どうでも良い。これから私はどうなっていくのだろう?果ては平井や藍のような救いようもなく、見境もなく他人に危害を加える存在になるのだろうか?・・・まあ、それも悪くない。

自分が生きるために他人がどうなろうと知ったことか。自分が生きている以上、自分が主人公なのだ。主人公が生き残るために他人を踏みつけて当然だろう?主人公が中心で物語は成り立つのだから。主人公以外は皆脇役で、その存在意義は主役を引き立てるためのみにあるのだから。

外は次第に明るくなり、夜明けと共にさっきまで降っていた雨や風が嘘のように止んだ。台風は去ったのだ。しかしその台風が残したものとは・・・

テレビを付けてみた。台風関連のニュースをやっているようだ。天気図が画面に出て低気圧の等圧線が木の年輪のように画面上に映し出されていたが、先ほどの耳鳴りがまだ続いているため音声がよく聞き取れない。テレビのボリュームを最大限にしてみた。画面上に表示されたボリュームの大きさは最大になったが、私の耳には何も届かなかった。

考えるとおかしくなった。そうか、藍の部屋のテレビのボリュームが大きかったのもこういうわけか!おかしくてただひたすら声を上げて笑った。笑いすぎて喉が痛くなってきたが、それでも構わずに笑った。今更近所迷惑もへったくれもないだろう。ただただ笑い続けた。

外に出たくなった。こんな所にいつまでもいられるか!さっき藍を殺した時の感触が忘れられない。そうだ、街に出よう。街に行けばとにかく人がいるはずだ。誰でもいいからもう一度包丁で・・・そうだ、昨日道にうずくまっていた女性がいい。あの中年の心臓の弱い女性を・・・これからもあんな持病に苦しんで生きていくんだ。真っ先に殺してやろう。

血糊のベッタリ付いた包丁を手に私は勢いよく玄関から飛び出した。外を飛び出した私は嬉しくて仕方なかった。外は東の空が薄く青く、夜明け前というところだ。新しい私の夜明けだ。やはりおかしくて仕方がない。何と清々しい気分なのか!理性の殻を一度破るとこんなにも気持ちの良いものなのか!!全てから解放され、ただ本能のまま生きる。人類誕生の最初の人間、旧約聖書のアダムとイヴになったような気持ちになった。私は、私は・・・

駆け出す私の背中に、テレビから最大限の音量で流れるキャスターの熱っぽい歓声が突き刺さっていた。しかし私の耳には届きはしない。何のことやらさっぱり理解できなかった。まあ良い。最早理解等必要ない。何も考える必要なんてないんだ!

皆ウィルスに感染してしまえばいいのに・・・感染しない人間は死んだ方が楽なんじゃないか?私はそのまま笑いながら市街地に向かって裸足で駆け出して行った。右手には勿論人類を苦しみから解放するための道具を持って。

「・・・繰り返します。先ほど政府はK=Aウィルスの沈静化を宣言致しました。K=Aウィルス調査委員会委員長門島教授によると台風10号がもたらしたA=KセルによってK=Aウィルスの中和作用が確認されたとのことです。我々人類は救われたのです!繰り返しお伝えします・・・」〈了〉