KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

ものまね士

小説を書くにあたり色々な小説を読んでみようと思いました。やっぱり自分が好きな小説だけ読んでいると好みや考え方に偏りができるので、色んな方向から刺激を受けたいわけですね。そんなわけで前にも書いたのですが皆に「今まで読んだMyBestな本」を聞いて、それを参考に色々と読んでいます。新鮮で面白いですね。

爆笑問題の太田さんが以前「今まで読んだ中で一番」と挙げていたのが「タイタンの妖女」という海外のSF小説でした。読書家の彼が一番だというのだから余程面白いのだろうと思って読んだのですが・・・。

結果、面白かったのは面白かったです。元々SFが一番好きなジャンルですから。面白かったのですが、期待が高すぎたせいか、最後がちょっと個人的には物足りなかったです。しかしそれは作者のせいではないようです。

作られたのが私の生まれる前だったという点が驚きです。正直その当時に読んだら衝撃の作品だったのでしょうが、今は似たような作りの本がたくさん出ていますので、そういった意味での新鮮味がなかったんですね。ちょっと勿体ない感じがしました。

太田さんが読んだ当時は相当衝撃的な作品だったのでしょうね。彼の所属事務所「タイタン」の名前をそこから取った位に感銘を受けたそうです。そう考えると今の作家は余程奇抜な作品にしないと「誰それの真似だ」とか酷評されてしまうんでしょうね。

もっとも何事においても完全なオリジナリティーとはほとんどあり得ないと思うわけです。人生において見て聞いてきたものに少なからず影響を受けているはずです。例えばあのサザンの桑田佳祐さんも「昭和歌謡曲に影響を受けている」と自認されていますし。

かくいう私も「ものまね」です。それはこのブログといった「作品」のみならず、行動、考え、喋り方、といった「私自身」も色んな方面の影響を受けています。人は色々な要素を取り込みながら、そのエッセンスを自分流に調合して個を作り上げるということになるのでしょうね。そもそも人間の元の遺伝子が親のコピーなわけですから。

ただ100%コピーでは「贋作」という事になります。なのでできるだけ多くの事象に触れて体験するという事が個を育て上げるという事で重要になると思いますね。

さて、今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。


※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

                         正義のみかた

第三章 黒い疑念

「あの当時の所長は鬼気迫る迫力で、マイク・タイソンも近づけない程でしたよ」
と冗談ぽく言うのは経理を担当してくれている秋月いずみ君。大学卒業後すぐにうちにやってきて、明るくて気立ての良い職場のムードメーカーだ。ただ冗談がつまらなかったり理解に苦しむところがあって、時折周りの皆が言葉を失ってしまうことも。まあその辺も彼女の魅力だと言う声もあり、あばたもえくぼに変えてしまう活気がある。

彼女には落ち込んでいる私を随分と励ましてもらった。私が精神的平衡感覚を早い段階で取り戻せたのも彼女のおかげだ。感謝している。

勿論事件の事を忘れる日などない。明かりのついていない部屋に帰る度にため息が漏れる。この部屋を離れるつもりはない。洋子が気に入って選んだ部屋だ。洋子の好んだ景色やキッチン。ここを捨てて忘れるということはできない。捨てたのは忌々しいベッドだけだ。

犯罪者に洋子や梓を奪われて、その上部屋まで奪われないといけないのか?意地でも引っ越すものか。洋子と梓の霊が出るのなら進んで受け入れよう。また仲良く三人で・・・しかし現実的には殺人事件があった部屋なぞ買い手がつかないし、ローンもまだ随分と残っているのだが・・・。

それから月日は流れ現在に至る。今となっては事件以前のように生活のリズムも取り戻し、仕事面でも充実を取り戻しつつあった。しかし何気なくテレビで報じられた少年犯罪のニュースに私の記憶は呼び戻された。「福岡市内の会社員若葉和明さんの妻と娘が殺害された事件に絡み、警察庁は容疑者として福岡市内の16歳の少年を逮捕しました。」それが敦君のニュースであった。

私の脳裏にあの忌まわしい事件がフラッシュバックした。寝室の光景が蘇る。あぁ、また同じ悲劇は繰り返され、そして私と同じような悲劇の男性を一人作り上げてしまったのか。この男性は嘆き悲しみ、殺人犯への憎悪に魂を砕かれるだろう。一方で己の無力さに打ちひしがれて、事件が一段落する頃には燃え尽きてしまった灰のようになるのだ。バーンアウト症候群というやつだ。私が実体験したことであるから手にとるようにわかる。同情を禁じえない。恐らくは日本で一番私が彼に共感できる。

私とこのニュースとの関わりはその一点に尽きると思っていたが、実はそれだけに止まらなかった。

やがて小山雄三と名乗る男性から一本の電話が私の事務所にかかってきて、私に仕事の依頼を告げた。何を隠そう小山雄三氏は敦君の実の父親であり、その依頼とは私に敦君の弁護をしてくれという内容だったのだ。

私は当初断るつもりだった。この父親は私が同じような事件の被害者だということを知っているのだろうか?
「存じ上げております。存じ上げております故、敢えてお願いしているのです」

私は訳が分からなかった。普通は逆じゃないのか?同じような被害に遭った人間に、その反対の弁護をやれと?頭がおかしいんじゃないか?それとも本当は息子を助けたいと思っていないのではないか?わざと裁判に負け、犯罪者で一族の面汚しの息子を一生塀の中に閉じ込めておいて欲しいのではないか?

無論私の口から父親に向かって「本気で弁護しませんよ」とは言えない。私に与えられた選択肢はYESかNOの二者択一、受けるか断るかしかない。ただ受けた場合も手を抜くつもりはない。それが私のプロ意識である。

引き受けるかどうかは一晩考えさせてくれと保留した。その噂を聞きつけた所内の連中が私の所にどっと押し寄せてきた。
「所長、どうなさるおつもりですか!?」
「勿論断るんでしょう?」
「一体全体その父親は何を考えているんだか・・・」

秋月君曰く「その時の所内は喧々諤々、まるで韓国の紛糾した国会のようでしたよ」だとか。相変わらずイマイチ伝わりにくい例えだなあと苦笑いしたことを覚えている。
「でも所長は引き受けるんですよね?」

仏前に座って洋子と梓に報告した。
「洋子、梓、オレは一体どうすれば良いんだ?常識的に考えてこんな馬鹿げた話はないと思うんだ。だが、オレはもう一度確認してみたい。今回の話は自分が加害者でも被害者でもなく、第三者からの立場であの出来事を振り返ってみる良い機会だと思うんだ。そうしてもう一度見つめ直す事によって、オレはあの事件をオレなりに昇華できそうな気がする。なあ、どう思う?」

残念ながら未だ部屋には洋子と梓の霊は表れず、遺影も動かないため彼女達の気持ちはわからない。だからといってイタコに頼んで確認しようとも思わない。そう、それは単なる事後承諾の儀式であり、私の中ですでに決意は固まっていたのであった。