今回はGWということで少し時間もあったので、昨日のソネットエンタテインメントのフォローに引き続いて、ポートフォリオで三番目に歴史の古いソフトバンク(9984)のフォローをしたいと思います。
【概要】
いわずと知れたカリスマ経営者孫正義率いる持ち株会社。傘下にヤフー(4689)、ソフトバンクテレコム・モバイルを始め、通信業を中心に日本を代表する企業を多数持つ。
【業績】
先月末に発表した決算発表では、ヤフーの利益拡大と固定通信のソフトバンクテレコムによる経費削減効果が寄与し連結営業利益3591億円と過去最高益を達成。加えて大きかったのが手持ち流動資金であるフリーキャッシュフローが1815億円のプラスとマイナスだった前期から大幅に改善。昨今の企業に流れる資金繰り不安を払拭するアナウンスメントとなりました。
来期(10.3)予想(KA.Blog)
売上2兆7000億円 営業利益3900億円 経常利益2900億円 最終利益1100億円 配当年5円
四季報予想よりはやや落ちるものの、全体としては順調な増益見通しであり、成長戦略に陰りはありません。
現在の主力事業ソフトバンクモバイルは徹底した低価格路線を貫いて、携帯純増数2年連続No.1を達成。プロ野球団ソフトバンクホークス並びにお父さん犬を用いた徹底したイメージ戦略でCM好感度もNo.1。以前の「安かろう悪かろうソフトバンクアレルギー」とも言えるユーザーに横たわっていた倦厭材料は薄れつつあります。
ただし通話・データ併せた総合ARPU(ユーザーの1ヶ月辺りの平均使用料)は4,070円と前期より約1割以上減少。また平均解約率も前期に比べて改善したとはいえ1%とドコモ(9437)の0.5%(ARPUは5,710円)、auの0.75%(同5,800円)に比べると、手放しに喜べない状況でもあります。
【今後の見通し】
国内の携帯電話加入者数は既に頭打ちであり、これ以上は単なるパイの奪い合いにしかなりません。相対的にはシェアも伸びて強くなりますが、その成長戦略は次の一手を考えなければなりません。現在はデータ通信量も伸ばすためにお笑いなどのコンテンツ作りに力を入れています。
通話料金はiPhoneにも導入可能となったSkypeが今後侵食してくる事を考えると、これ以上伸ばしようもありません。頼みの綱のデータ定額も、イーモバイル等の新規参入組やPHS事業者も含めて競争が激化するため、これ以上月額料金単価を増加させるわけにはいきません。ただこの辺りはまだデータ定額未加入のユーザーが多いため、前述したコンテンツ力の強化を含めて開拓余地があると言えます。
しかしiPhone獲得によって拡大しようとしたデータ定額のユーザーも、青写真とは随分と異なった結果になってしまったものと思われます。筆者を含めてコアユーザーの獲得には寄与しましたが、アップルに支払う1台5万円程度とも言われる「上納金」を始めとする諸経費も重石で、派手さ程の利益獲得には結びついていません。下手するとサポートの難しさによるお荷物にすら成りかねない状況にあります。
端末0円キャンペーンも他の携帯端末提供会社にとって嫌な存在です。あまりiPhoneに偏重した販促を続けると、シャープ(6753)やパナソニック(6752)の魅力的な端末を排除してしまう事になり、今後の端末提供に禍根を残すかも知れません。
ただiPhoneのAppStoreのような課金スタイルは同社にとって参考になるでしょう。このようなビジネスモデルを自前で構築できれば、同社の収益も少しは安定してくるのではないでしょうか。
ヤフーのADSLを柱とする既存のブロードバンド環境に関しては加入者は頭打ちになる事が目に見えてきており、あまり将来の成長を見込める事業とは言えません。かつては超格安ADSLを武器にブロードバンドの普及に一役買った同社の事業も、その役目を終え少しずつ収束に向かうものと思われます。
次の一手としては昨日のソネットエンタテインメント同様、モバイルブロードバンドの確立というところが接続業者共通の課題になってくると思われます。同社が免許を取得した次世代無線通信方式WiMAXのモバイル版であるモバイルWiMAXの普及が次なる目標でしょう。ただ競争の激化によって、この方式もやがては低価格で提供する形になりそうで、整備費用を考えると収益への貢献は限定的と言えそうです。しかしだからと言ってやらないわけにはいかず、通信業者のジレンマが見え隠れする形になるでしょう。
今回の決算発表で一番大きかったのが「3年間でフリーキャッシュフローを1兆円創出し、現在約1.9兆円ある純有利子負債を、2年度後(平成24年3月期(2011年度))に半減、5年度後(平成27年3月期(2014年度))にゼロにする」と宣言したこと。これは同社の歴史的転換点であると言え、従来のレバレッジによる拡大成長路線を捨て、収益の回収に向けた経営に舵をきると公言したわけです。
経済学的に見ると長期的にはマイナス材料かも知れませんが、これだけ資本主義の崩壊だとか叫ばれる世の中では、一先ずリスク回避に動く事によって安心感を与えることができ、現時点では正しい経営判断と言えるでしょう。
これらは孫社長の事業承継に向けた方向転換という見方もできますが、同時に「株主への利益還元を進めるべく、今期配当を1株当たり5.0円に倍増。再来期以降については更なる増配を」とも。ようやく今まで低配当に我慢を強いてきた株主に報いる段階にきたと認めました。
【保有株の価値】
事業以外には、子会社として保有している国内外の株式の価値に注目。元々持ち株会社である同社は、上場企業では前述のヤフーを筆頭株主として支配下に置いている他に、アメリカヤフーの大株主、また中国Alibabaの第2位株主でもあります。主要国の通信事業の中核を卒無く抑えており、事業展開に向けての下準備は万全というところです。
また同社HPでは保有株の時価総額、及び含み益を毎日更新していますが、それによると時価総額ベースで現在約7000億円もの価値があります。これは日本とアメリカに上場している株式のみで、それ以外のもの(特に上記のAlibaba株など)を考慮すると、1兆円を超す時価総額という事になりそうです。子会社アリババドットコムの香港上場当時だけで数千億の含み益と言われましたから(現在はだいぶ落ち着いていますが)。
ちなみにAlibabaグループは、中国で多数のIT関連子会社を持っており、これがまたそれぞれ最大級のシェアを握っています。今後の中国におけるITの拡大局面では圧倒的な強さを誇るでしょう。この点についてはさすがに先見の明のある孫社長の手腕と言え、中国においてITバブル再来のあのエネルギーをもう一度味わうことができるかも知れません。
【株価推移】
この銘柄も果たしてライブドアショックの影響を色濃く受けています。2005年末まではオイルマネーの流入観測もあって、ITバブル以後久しぶりのソフトバンク狂想曲とも言える出来高を伴った大幅な上昇が見られましたが、一度IT関連銘柄にケチが付き始めると下落の一途。昨年10月に同社にはお約束の資金繰り不安説が流れると一時上場来安値の636円まで下落する場面がありました。
ただ孫社長が資金繰り不安を否定し、実際に上方修正を続ける過程でその業態的なディフェンシブ性も背景に株価は持ち直し。直近では先週の決算発表を受けて大きく買われる展開に。テクニカル的には約1年半ぶりに52週線を上抜いて、一目均衡表の雲抜けも達成。長期トレンド転換の兆しを見せつけています。日足で見ても窓明け後の大陽線でMACDを始めとする全ての指標が好転し、先高感の強いチャートになっています。
信用倍率の1倍割れにも注目。特に先週末の大幅高の場面では大量の空売りも入った模様で、貸借倍率は0.07倍と過去最低水準をマーク。ここから空売りの買い戻しを巻き込んだ大相場に発展する可能性は大いにあると言えます。
前述したように2005年12月は同社が大相場を形成した後に高値を付けたわけですが、実は安値を付けたのはその3年前の2002年11月。そして昨年2008年10月には安値636円を付けました。まさに相場サイクル3年周期がピッタリ当てはまる形になっているわけです。
であれば現段階は2011年後半の高値に向けた上昇循環サイクルの途中であると言えるわけです。月足で見たMACDもまだ月中でありますが、約3年ぶりの好転を見せてその事を裏付けています。
【問題点】
これだけ大きくなった企業ですから、問題点は山ほどあるわけですが、その中でも気になる点をピックアップしていきます。
まずはやはり有利子負債の大きさ。これらを完済するという孫社長の意気込みはわかりましたが、そうは言っても1.9兆円という桁違いな有利子負債をどれだけ返す事ができるのでしょう。単純に考えれば5年で2兆円のキャッシュフローを創出せねばならず、これは5年先の経済変動が想定の範囲内で収まる事を前提の上で算出している数字ですから、現段階では難易度は高いと言えましょう。5月1日のアナリスト説明会では「保守的に見込んでいる」「十分達成可能な数値である」と繰り返されていましたが、どの程度信憑性があるでしょうか。
ただ孫社長は大規模投資を続けてきた以前から「利益を出そうと思えばいつでも出せる」と公言してはばかりませんでした。有言実行の人であるという神通力はもうしばらく信じて良いのかも知れません。
次には事業の成長性です。差し当たって通信3事業である接続・固定通信・移動体通信の3事業は、少なくとも国内では飽和状態に近づいてきています。前者2事業は割合も小さくなってきており、ある程度成熟度は内包できますが、移動体通信事業について少なくとも宣言の出た5年先までは一定の成長を確保し続けなければなりません。前述したように携帯電話契約者数全体では増えないパイの中でARPUは減少し、データ通信量増加による保守の強化が必要な中で、どの程度成長性を確保できるのかが課題です(現段階ではもうしばらく加入者増による費用の効率化がプラスに働くとは思いますが)。
他方で海外の成長性については期待が持てます。同社の決算説明会資料によると、2015年のネット利用人口はアジアで全世界の50%を握ると見通しており、その大部分が中国によるものだとするとアリババを始めとする様々な種まきが実る時期もそう遠くないと思われます。将来的にはその辺りに現在の事業の軸足を移していく形になるのでしょう。
株価の需給面で言えばカギを握るのは個人投資家と海外の富裕層ということになります。ITバブルで盛り上がった時期から個人投資家の人気は絶大でした。その面影は今も残り、四季報によると前期中間期現在で37万人超の株主がいます。
昨年10月の大暴落局面において、大ダメージを受けた個人投資家は動き辛くなり、8月高値と比べて株価は1/3になりました。その間の日経平均は半分にもなっていませんから、その下落幅の大きさが窺えます。同社の借金を利用したレバレッジ戦略が逆回転した結果とも言えます。
昨今の株価回復局面においてはそのリスク許容度も高まってきています。ですから現在のような場面では買い圧力が強いでしょう。ただ一方でまた相場が軟調になってきた時にはそれがマイナスバイアスを伴って影響してくることになります。
同社が大きく値を上げる場面では海外の富裕層の力が必須です。ITバブル時はアメリカの、2005年ではオイルマネーの、そして前述した2011年に向けた大相場には恐らく中国を中心としたアジアマネーが必要になってくるでしょう。その時に海外の状況はどうなっているか。同社の株価動向は業績の推移以上に市場動向や投資家の懐事情に因ってくる部分が大きいと思われます。その辺りが株価推移を読み辛くさせる、カオス的な要素になってくると思われます。
※株式投資は自己責任でお願いします。文中の内容は現時点で予測できる範囲で想定されたものであり、投資成果を保証するものではありません。