KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

三十路より 100 倍恐ろしい

先日角川書店が主催した「第2回 野生時代 青春文学大賞」にて、大賞を受賞した「りはめより100倍恐ろしい」を書いた木堂椎さんは現役高校生であることにも驚かされましたが、それ以上に話題となったのは全て携帯メールで書かれたということでした。その総量実に10万文字!じゅ、じゅ、じゅ、10万文字!?(××)

10万文字というとどれくらいの量になるのでしょうか?携帯メールで一回あたり打つ平均文字数ってどれくらいなんでしょうね?どこかの調査機関が調べたりしていないでしょうか?

とりあえずドコモのメールの最大文字数は全角で250文字(movaの場合)。最大で書いたとしても400通分。100文字程度のメールで1000通分になります。うーん、大したものです(・・;)

そんな中、自分の小説の文字数をカウントしてみると、今日現在のものまでで実に5万文字・・・彼の半分しかまだ書いていません。それを毎週ひぃひぃ言いながら書いてます(-。−;)そしてそれも間もなく終わりを迎えようとしています。

私も彼のような才能と集中力が欲しいですね。そして若い時に好きなものに打ち込める彼を羨ましく思ったりします。あぁ、返らぬ青春・・・(T△T)

というわけで、今日は日曜ですので小説の日です。前回までの分は先週までのブログをご確認ください。

                    
                      台風一過

第二十三節 恋人が変人

その後何度か呼びかけてみたが、およそ解せる反応は得られなかった。そのうち何かに激しく衝突したような音が聞こえて通話は途切れてしまった。何が起こったのかわからない。突然途切れた携帯の画面に記された通話時間表示は、自体を把握できずに呆然とする私を気遣うかのように、自然と消えて待ち受け画面に戻った。

藍に何が起こったのか?そんなことをここで考えてもしょうがない。直接会ってみるしかないじゃないか。しかし会ってどうする?確認するのさ。確認してどうする?藍のうなり声なんて今まで聞いた事がない。当たり前だ。普通に生活していてうなり声を出すような場面はあるか?あれは明らかにキャリアの症状だ。藍がキャリアに?まさか。そんなはずはない。いや、そんなはずはないと言っても実際に今の電話をどう説明する?もう一度電話してみるか?繋がったとして何がわかる?ここで何がわかる?・・・

ようやく部屋を出るのに10分は必要だった。その10分間何をしたか。ただ気持ちが落ち着くのを待っていただけだ。私の混乱ぶりは私自身が一番よくわかっていた。そしてその混乱が収まる頃には最悪の結末が頭の中を支配していた。

仕事着であるスーツ姿のまま、着替える暇もなく再度玄関の鍵を開けることになった。スクーターの鍵を危うく取り落としそうになる。階段を踏み外しそうになる。壁にぶつかりそうになる。

藍の部屋へ向かう途中、夜風を受けて走りながらふと思い出したことがある。やはり福島から東京へ藍とのスクーター二人乗りで風を受けて戻ってきた時、藍の様子は微妙におかしかった。時々会話がかみあわなかったり、目の焦点がずれているような印象を受けたり、妙に汗ばんでいるようだったり。全て長距離移動に伴う疲れからきているのだと思っていたが、今考えるとそれが変化の初動だった。その異変が見えだしたのは藍と一緒に洞穴で一晩過ごした後のことだ。政府は台風8号の通過でK=Aウィルスは運ばれて来なかったと公表した。しかし、実際にはどうなのか?我々に真実を知り得る手段はない。

それとも平井に襲われた時にウィルスに感染したのだろうか?いや、まだキャリアと決まったわけではない。まだわからないじゃないか。思考が現実逃避に働くため、体も現実逃避に動く。スクーターはいつもより10Km遅く走り、赤信号で捕まる度にホッとした。

こんなにも嫌な気分で藍のマンションの前に来たことは一度もない。藍と喧嘩をした次の日に来た時だってもうちょっと救いがあった。スクーターを止めてから一つ大きく深呼吸をした。他に何か気持ちを落ち着かせるおまじないはあるだろうか?気休めでも良いから頼りたい。

幸か不幸か、マンションの入り口側からは藍の部屋は見えないようになっている。もし見えたとして、危なそうだったら引き返すか?いや、どちらにしろこの目ではっきり確かめるまで帰れないだろう。そうでないと、そもそもここに何しに来たかわからない。自分でも意外な程覚悟はできたようだ。

慎重に階段を上る。一歩一歩確かめるように。階段を一つ上る度に鼓動が高くなる。早くなる。ようやく藍の部屋の前に来ると、よほどの音量になっているのだろう、内側からテレビの音が漏れ聞こえてきた。丁度今の時間に入っていたドラマのエンディング曲が流れているようだ。先ほど電話した時とチャンネルは変えていない様だ。口の中が酸味でいっぱいになる。

これでは聞こえるはずはないと思いつつ、それでもインターホンを押してみる。・・・やはり反応はない。もう一度押してみる。居ないことはないはずだ。居留守でもない。聞こえないか、聞こえても状況が飲み込めないだけだ。ドアをノックする。「藍!藍!」叩きながら叫んでドアノブを回してみると鍵はかかっていないようで、ドアは開いた。

開いたドアから大音量の音が流れ出す。一度だけクラブハウスという所に行った事があるが、確か丁度この位の音量だ。ただし流れ出てくるのは重低音のダンスミュージックではない。CMの良く耳につく宣伝文句と曲が聞こえてくる。玄関から部屋を覗き込むと電気は付いておらず、中の様子はほとんどわからない。テレビの明かりが奥の方から漏れているだけだった。

「藍!どこにいるんだ!?」
叫びながら中に入ったのは自分を奮い立たせるためだ。お化け屋敷に入り込んだ気分だ。キッチンや洗面台を通り越して、奥の部屋へと続くドアに手をかける。本当はドアの向こうの光景は見たくない。見たくないが見ないわけにはいかない。

ドアを開けると耐えられないような大音量が耳を叩く。窓が割れて風が部屋の中を通り抜けていた。そしてその風が運んで来たのは鉄のような臭いだった。それは血の臭い。9月の夜風は生暖かく、血の臭いが風下の私に容赦なく吹き付けられる。

テレビの明かりに照らされて、一人不自然な格好で横たわっている人物がいる。私は急いで部屋の明かりを探って付けた。一瞬その明かりに目がくらんだが、それに慣れると今度は惨状に目がくらんだ。その人物は至る所を切り裂かれ、服もボロボロだ。部屋中赤黒い血が飛び散り、モダンアートの作品のように家具や床を染めていた。その切り口からは肉や薄紫色の臓器が覗き見える。いい知れない嫌悪感に私は吐き気をもよおし口元を押さえた。よろめきながらもう片方の手で壁に寄りかかる。その凶器に使われたと思われる刃物もすぐ傍らに落ちてた。

横たわっているのはこの部屋の主とは異なる人物だった。初老の男性で、幸いにして顔はあまり傷つけられていない。どこかで見覚えがある。そうだ、確かこのマンションの管理人。時々入り口で見かけた事がある。きっと藍の異変に気づいて様子を見に・・・

「うっ!!」
突然息苦しくなったのはこの陰惨な現場の空気が原因ではない。背後から首を両手で思い切り締め付けられている!振りほどこうと右手で右手を、左手で左手をしっかり掴み、相手の両腕を引き剥がしにかかる。徐々に気道が確保されていくが、相手も諦めようとしない。しかし、見覚えのある細い指は少しずつ私の首から引き離された。

振り向くまでも無かった。藍の顔は青白く、目は充血し髪は乱れ、顔には管理人に抵抗された時についたのか数カ所のアザと引っ掻き傷のようなものがある。藍の力がこれ程とは思わなかったが、一般的に女性と男性では腕力に差がある。私は藍の両手を押さえ付けることに成功すると必死に呼びかけてみた。

「藍!オレだ!!しっかりしろ!藍!!」
しかし私の声の大半はテレビの天気予報の声にかき消され、ほとんど届かなかったようだ。いや、テレビが付いていようが付いていまいが結局は届かなかっただろう。藍はひたすら「うっ、うぁーっ!」とうなり声を上げ続けている。

最初の電話から今までの間に最悪の事態は想定していた。その事態を確認した今、これ以上ここで何をすることがあるのか?一刻も早くこの現場から立ち去らなければ!

藍の両腕を思いっきり引っ張り、私が体をかわすと、藍はそのまま床に勢いよく倒れ込んだ。私はそのまま玄関に走り出すと、靴も履かずに飛び出した。階段へ駆け寄る途中に非常ベルの押しボタンがあったため、思い切り押し込む。ジリリリリ!と耳に付く音がマンション中に響き渡ったが、さて一体何の効果があるというのか?それにより事態が好転するとは思わないが、何もしないよりは・・・

マンションの入り口から外に出ると慌ててスクーターの鍵を探った。なかなか見あたらない。ようやく探り当ててエンジンをかけると、階段口に藍が姿を現す。私に追いすがる。意味不明な何かを叫びながら私につかみかかろうとする。最早ためらいはなかった。私は急発進し、藍を跳ね飛ばしてそのまま走り去った。後ろを振り向く余裕等ない。かつて恋人だった彼女を轢いて、それを確認できる程、私は強い男ではなかった。

恐怖からか、それとも別の感情なのか、スクーターを走らせながら涙が止まらなかった。向かい風に煽られても、乾くことなくしばらく流れつづけていた。(つづく)