KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

想像を創造する

先日のニュースで小学生の図書館利用率が過去最大になったというニュースがありました。活字離れが叫ばれている昨今の中意外なニュースとして受け止められています。先日私が近所の図書館へ行った時も大量の小学生が貸し出し受付に列を成していました。学校から「図書館に行って一人二冊借りましょう」という事だったようですが、こういった運動の結果のようです。

というわけでぶっちゃけ自発的に借りたわけではないみたいなので、この数字自体あまり意味がないのかなーとも思います。ただ一方、私は活字離れがそんなに悪い事かとも思います。よく漫画は読むが本を読まないという「漫画悪玉論」が取り沙汰されますが、漫画でも別に良いじゃんと思います。

確かに活字で読み取ったものを頭の中で具象化して自分なりに風景や状況を組み立てる事は脳に刺激を与えて良い事であると思います。特に漢字というキャラクターは元々が姿形から形成されているので想像の幅を広げるエッセンスとなっています。しかしだからといって活字、小説=高尚、漫画=低俗という図式は違うんじゃない?と思います。

漫画の場合は絵が描いてあるため、作者の描写を視覚的に捉える事ができます。読者が「想像する」という作業を作者が「絵を描く」という労力で代替しているという見方もできますね。私のイメージとしては小説は2次元世界、漫画は3次元の世界という感じです。であればむしろ漫画の方が絵という表現が付け加わっている分、上のレベルの作品であるという言い方すら当てはまるかも知れません。

しかし私はどっちが上でどっちが下であるかなんて思いません。それは作品そのものの質に下されるべき評価ですから。くだらない漫画もあればくだらない小説もあると思います。

で、私が漫画でなくて小説を書くのは詰まる所「絵が下手過ぎて描けないから」ですね。字も汚いのですが、今はパソコンのように便利なツールがあるわけですから、そこら辺の問題はクリアーできています。

さて、今日は日曜の小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。


                            正義のみかた

第四章 白い壁

福岡市内はどんたくの余韻が街の端々で未だ残る5月中旬であった。太陽が出ている間は暑く感じるが、外の空気は少し冷たく心地よい。そんな気候が続いていた。

愛車のミニクーパーを走らせ早速市内の福岡北警察署に留置されている敦君に接見を求めた。天気の良い日にオープンで走ると最高に気持ちが良いのだが、あいにく天気は曇りがち。午後から雨が降るかも知れないとの予報もある。

ちなみに愛車は妻が勝手に「アリト君」と名付けた。私も妻も大好きな地元プロ野球団で機動力のある選手の名が由来だ。実際には「有人」と書いて「ありひと」という名前なのだが「まあ車っぽくて良いんじゃない?」とは読み間違えた妻の負け惜しみだ。訂正する気はないらしい。勝手に名前を使われた有人選手は妻が応援できなくなってからは他球団で活躍している。元々車は私の「アリト」と妻のカローラがあったが、カローラの方は車検の際に廃車とした。主人はもういないのだから・・・。

福岡北警察署は福岡市の北側を管轄とする警察署で、とあるデータによると管轄の広さと中心地にある繁華街の影響で日本で一番忙しい警察署になった事もある。一位でなくなった今でも忙しさは変わりないようだ。

署内には顔見知りの姿もチラホラ伺える。仕事上でお世話になっている人たちが大半なのだが、私が一番お世話になっている人といえば刑事課の溝口さんだ。

彼は私の事件の時に担当してくれたベテランの刑事さんで年は確か50前半。小柄で白くなった頭髪は短く揃っており、体格はずんぐりむっくり、本人は嬉しくないのかも知れないが小熊を連想させ愛嬌がある。タバコを片時も離さないヘビースモーカーぶりで、昨今禁煙の風潮から署内の隅に唯一置かれている喫煙所にいつも追いやられている。そしていつも煙でその版図を拡大せんと目論んでいるかのように、しかめっ面でタバコをふかしている。ここに来た時にはまず喫煙所の彼の所へ一番に挨拶に行く。

私が近づいていくと気配に気づいたらしい。溝口刑事は吸いかけのタバコを灰皿に押しつけながらもう片方の手を軽く挙げ先に声をかけてきた。
「よう」
「ご無沙汰しております」
「いや今回の事件を聞いた時、真っ先にあんたの事が思い浮かんだよ。それが聞く所によるとあんたが奴さんの担当するんだって?」
「はい、奇しくも私に依頼がありまして・・・」
「驚いたよ。あんたの仕事も因果な商売だよな。何で引き受けたの?」

当然の質問だ。これから先、私を知ってる人には繰り返し応じなければならない。理解は得られないかも知れない。「自分の妻娘を殺されておきながら、商売のためなら何でもするのか」と思われるのだろう。覚悟の上だ。

「奴さんは既に取り調べに応じて、殺害の事実は認めている。見た目は札付きの不良っぽいが、案外素直に応じているようだ。まずはあんたも会ってきたらどうだ?」
「えぇ、そうさせていただきます」
「それにしても何だな、その親父さんがあんたに弁護を依頼してきたのはつまりは、えーと、アレだ、アレ。こういうことじゃないか?かつて同じ境遇に遭ったあんたが被告人の弁護人となって減刑を求めれば、求める量刑にかなりの説得力がある。その辺を狙ってきたんじゃないか?」

私もその線を感じる。「私も同じような事件の被害者であるが、重刑は良くない。少年には更生の機会を与えるべきだ」私がこう言えば多くの共感を得られるだろう。今回の原告若葉和明氏も納得せざるを得ないかも知れない。しかし、もしそうだとしたら何と狡猾な父親の企てか。そして私が必ずそうするとは限らないではないか。だが今回の弁護依頼を受けるのも断るのも私に選択権があり、とにかく私は引受けた。そしてそれは一方で自分のためでもあった。であるならそれ以上何も詮索する必要はない。

溝口刑事に接見所まで案内してもらう。横に並んで歩き出す。
「しかし何だな、あんたも随分と損な役回りだな。マスコミに知られたらどう叩かれるか。自分の時は被告に厳刑を求めていたクセに他人の事なら減刑を求めるのか?金のためなら仕事を選ばない弁護士だ、と」
溝口刑事ははっきりと物を言う。そこが溝口刑事の長所でもあるが、今回は胸に響く。
「承知しております」
覚悟の上だ。何もかも。私は私の正しいと信じる道を行く。その覚悟はとっくにできている。今更何を思い止まる事がある?

署内の一番奥にある留置場の脇に接見室はあった。溝口刑事にお礼を言いドアの前で別れた。ドアノブを回して中に入る。室内には警官が一人既に監視役として座っている。よく刑事ドラマで見るあの部屋だ。中央は透明なアクリル板で仕切られており、犯人と面会者が挟んで会話するあの部屋。それ以外必要最低限のものしかなく、随分と殺風景な部屋だ。この仕事をやっていると色んな署の接見室を見てきたがどこも無個性でほとんど同じ。慣れてはいるが好きにはなれない。

間もなく敦君が入ってくる。そこで初めての対面となった。