小説を書くにあたり、中身を面白くしたいのは勿論なのですが、色々な部分で凝ってみようと思いました。
まずは各章毎のタイトルなのですが、必ず「白か黒」の文字が交互に入るようにしてみました。これは裁判をテーマにした話なので、「白黒はっきりつける」という意味からそのようにしています。
そしてもう一つは「K.A」という文字を入れる事です。何故かといえば、このブログのタイトルが「K.A.Blog」なので、著作権証明の意味合いも込めて各小説に必ず混ぜるようにしています。前回の「台風一過」の場合も「K=Aウィルス」という感じで登場させています。
その他にも色々な仕掛けがあるのかも知れません。お付き合いいただける方は探してみてください。
さて、本日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。
正義のみかた
第五章 黒い夢の再来
「こんにちわ」
私は相手の出方を探るように最初の一球を投じる。
「・・・ども」
彼はこちらを怪訝そうな表情で伺い、聞き取れない程小さな声で投げ返す。
丸刈りの頭に吊り上った細い眼。耳にはピアス。鼻口共に比較的端正に整っており、今若者に流行りの何とかというグループの誰かにそっくりだ。それが私の目の前に座った敦君の第一印象だった。
服装は逮捕時のもののままだ。黒地のパーカーに何やらよくわからない形の金のネックレス。下もだぶついたミリタリーパンツにスニーカーとガラの悪い連中の内に一人位は居る、逆に無個性な格好だとも言えるだろう。
ただ、本人の方はさすがに気落ちしているようだ。伏し目がちにこちらと目線を合わせようとはしない。署内に一人きりで捕まってイキがっていられるような神経ではないらしい。まして人が死んでいるのだから。
「小山敦君だね」
「・・・」
無言で彼はゆっくりと頷いた。
「私は君のお父さん雄三さんから依頼を受けた柿内法律事務所の柿内明義と言います。宜しく」
言いながら名刺を差し出す。許可のないものは差し入れできないのだが、さすがに名刺くらいは渡すことができる。彼はアクリル板下の小さな開き口から右手で名刺を受取った。そしてそのままぼんやりとした表情でしばらくそれを黙って眺めていた。
「ここでの発言は何の証拠にもならないから、私を信用して事実を全て・・・」
私の言葉は耳に届いているのだろうか?まあ、逮捕後に放心状態になっているケースはよくあるのだが。
名刺を見ながら何を考えているのだろう?弁護士が来る程の事態になったコトの大きさに改めて打たれているのか、今まで関わった事の無い職種の登場に戸惑っているのか。それとも父親の彼に対する対応の早さに驚いているのか?まさか彼が私の事件のことを知っているとは思えない。子供がそこまで日々のニュースに関心を持つか?もし知っていたとして真っ当な精神の持ち主なら、罪悪感で顔を上げる事すらできないだろう。
しかし次の瞬間彼は顔を上げた。この場合どっちに該当するのだろう?知らなかったのか、異常者なのか?そもそも私は犯罪者は皆精神異常者だと思っている。これは弁護士にあるまじき考え方なのかも知れない。だが犯罪など精神がまともな人間なら犯そうとは思わないはずだから。
しかしそれでも人はやり直せる。その一時的な異常のために更正の機会を与えられず、何でもかんでも極刑だの終身刑だのと重刑を与えるのは間違いだと思っている。私が被った事件だけは別として・・・
「へぇ、弁護士さんのイニシャルもK.Aなんだ。オレもK.Aだぜ。ははは・・・」
突然何を言い出すのか。その場に相応しくない発言に私はふいを付かれた。一瞬口をポカンと開けたまま閉じるのを忘れる程の。相当間抜けな表情だったに違いない。
「あ、そういわれてみればそうだね。ははは・・・」
何と返して良いかわからない私はその後の言葉を探るのに必死だった。乾いた笑いから何とか話を繋げようとする。
「明義という名前は父が付けてくれたそうだ。正義を明かにする、という意味から付けられたんだよ。私は気に入っているんだ。この名前のお陰で今の職業にありつけたのかも知れないね」
「・・・」
また黙り込んで名刺に視線を落とした彼はこの時何を考えていたのか。今なら何となくわかるような気がするのだが、当時は全くつかみ所のない少年で、私は早速やりにくさを感じていた。
「さて、本題に入ろうか。」
イニシアチブを取り返すために口火を切った。ここからが本番だ。心の中どこかでやはり本題に入るのを躊躇していたのかも知れない。私も彼も。
「まず君は5月10日水曜日午後5時半頃、若葉さん宅に窃盗目的で侵入し室内を物色。丁度その時家に居合わせた幸恵さんを発見した君は、彼女を強姦目的で襲った。抵抗する幸恵さんを黙らせようと片方の手で口を押さえ、もう片方の手で首を絞め・・・」
読み上げながらも鼓動がどんどん高鳴ってくる。胸が締め付けられる。悪夢の再現だ。時間と固有名詞をすり替えればそっくり私の事件に様変わりする。できればここはサラリと流して終わらせてしまいたい。が、そうはいかない。当時の状況をきちんと把握し詰めていかないと裁判を有利に運べないのだから。実はこの作業が今回の仕事の一番辛い所だ。私にとっては。