完全に風邪をひいてしまいました(T△T)どうもエアコンの暖房を付けっ放しにして寝たら空気が乾燥してしまって喉を痛め、そこにウィルスが・・・という感じです。何か最近洗濯物乾かないから部屋の中を乾燥させて乾かす作戦が裏目に出てしまいました。
なので今日はいつも書いている前フリは無しで小説本編にさっさと行っちゃいます。小説自体はある程度書き貯めてあるので、アップするだけですから楽なんですよね。
今日は日曜なので小説の日です。前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。前回までの分が読み辛い場合や余りにも長過ぎて過去の話を忘れてしまった場合は下記のまぐまぐバックナンバーの方でも本文のみ公開していますのでご確認ください。
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※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。
正義のみかた
第二十五章 黒衣の群衆
傍聴席はびっしりと埋まっていた。傍聴券を得るための抽選も行われたようだ。今回の事件は既にマスコミに十分煽られ、その話題性からも注目度は高かった。そしてその注目度を上げたのは私の存在によるところが大きいと妙な自負がある。私の一挙手一投足が明日の紙面を賑すだろう。マスコミ関係者、フリーのライター、司法見習い等はもとより、市井の老若男女を問わずこの公判に興味を持つのも頷ける。大入袋も出演料も出ないのが残念であるが。
一方、相手方の美方氏も十分この世界では名の通った人物である。しかも当時の私の事件の担当検事も美方氏であったのだから、第三者から見れば一大エンターテイメントとしては充分過ぎる内容であるに違いない。しかしながらその観衆の期待に過度に応える義理はない。雇い主でもない彼らのために特別な演出などする必要もない。ただ無形のプレッシャーを首元に感じた私はただ一つ大きく「ふぅー」と息を吐いた。
検察官の起訴状朗読は長い。長いものになると裁判の半分は起訴状朗読に費やされるケースもある。確かに事件の経緯を細かく説明しないといけないが、いくらなんでも長すぎるのではないかといつも感じる。その点美方氏の起訴状は端的に表現され、声量も朗々とし、聞き惚れてしまう程だ。一昔前であれば無声映画の活弁士としてもやっていけたかも知れない。
人定質問(被告人の本人確認)に始まった冒頭手続は形式的に行われ、起訴状朗読、黙秘権の告知と次々に進んでいった。罪状認否も形式的に「被告人は起訴事実を認めますか?」と問われ、敦君も短く「はい」と応えた。私も「その通り間違いはございません」と応じた。
続いて証拠調手続の段に及んだ。冒頭陳述では被告人の成育・家庭状況、経歴等が検察側から報告される。
「被告小山敦は幼少期に母親から虐待を受けておりましたが、両親は被告人が小学校2年の時に離婚。その後は父親の小山雄三、姉玲子と共に生活。中学に入った彼は補導歴4回、高校に進学してもその素行は更正される様子もなく・・・」
恐らく大衆が求める理想の少年凶悪犯像ではないだろうか。まして鑑別所から逃走までしているのだから。ステレオタイプな世の中にはもってこいだ。冒頭陳述の間、敦君は目を瞑って全てを受け入れるかのように顔を上げて聞いていた。しかし頬の筋肉の辺りを見ると、かなり奥歯を食いしばって耐えているであろう様子が窺えた。
続いて私は検察側が請求した被告人の供述調書(乙号証)、目撃者等の供述調書(甲号証)に同意する旨を告げた。当然ここでは美方氏が身振り手振りを交えて証拠、供述調書の信憑性を強く主張する。検察側から提示された全ての物的証拠が敦君の犯行を雄弁に物語っていた。有罪であるのは間違いない。ただ殺人を立証する証拠はあっても、動機を推し量る証拠はなかった。その点が今回の公判で争われる、もしくは争える唯一のポイントであった。
検察側の犯罪事実に関する立証が終わると次は弁護側、我々の反撃である。我々は父親である雄三氏を証人として請求した。当然公判前整理手続の段階から決まっていた事であるからすんなり受け入れられた。
法廷内に背広姿の雄三氏が現れた。髭も剃って髪も整え正装してきた雄三氏だったが、こけた頬が彼のここ数ヵ月間の心労を端的に表していた。それを見た敦君はどう思ったのであろう?数ヶ月ぶりの再会であった。
裁判前に雄三氏を訪ね、証人としての出廷をお願いする際、差し出がましいと思いながらも問い質さずにはいられなかった。
「何故敦君と会ってあげないのですか?面会は正当な権利ですから、断られる事はないでしょう。敦君も一人で苦しんでいますし、是非会ってあげてください」
雄三氏は相変わらず肩を落とした様子で応えた。
「えぇ、えぇ、わかっています。しかしどんな顔してあいつに会えば良いのか・・・そして怖いんですよ、あいつに会うのが。いえ、勿論殺人者としての息子が怖いわけじゃなくて、ここまであいつを追い込んでしまったのが私ですから、あいつに恨まれていやしないかと。私にはあいつの目を見る勇気すらありません。自分が今こんな状況になったのは親父のせいだと思っているに違いありませんから・・・」
「そんな事はないですよ。彼は年齢こそ少年ですが精神的には自立しているはずです。先日彼に会った時も親父は優し過ぎると言っていました」
「あいつは優しい子です。だからそう言うのはわかっています・・・すいません。私はあいつをダシにして自分が会いたくない理由にしているだけなんです。こんな弱い父親を許してやってください。すいません。笑ってください・・・」
証言台の前に立った雄三氏はまず裁判長に向かって一礼し、検事側、弁護側にそれぞれ礼をした。そして最後に敦君に向かって深々と頭を下げた。敦君は驚いた様子で父親の頭をじっと見つめた。顔を上げた雄三氏の目には迷いのない、決意の色が満ちていた。
証人尋問に先立って、雄三氏は宣誓文の読み上げを命じられた。
「宣誓、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない事を誓います」
「小山さん、今日は真実をありのままに語っていただきます。宜しいですね?」
雄三氏は私の問いかけに黙って肯いた。既に私が何を聞くか、それを元に裁判をどう進めていくかは雄三氏も了承済みであった。「全て私に任せること」それが私がこの裁判の弁護を引き受けるに当たっての一番の条件であった。
※来週の小説はお休みします。予めご了承ください。