KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

理不尽さとの共生

今回の小説の元となった事件は皆さんご存知かと思いますが山口県光市で起きた母子殺害事件です。そのニュースに触発されて、私が今まで色々と小説のネタにとっておいた話と絡ませて作り上げたフィクションです。

本村さんの無念は推して知るべし。報道を見る度に腹が立ってしょうがありません。それは被告、被告の父親、弁護士に対してであり、恐らくは大部分の方が私と同意見ではないかと思っています。

ここは私のブログであるため、私が見聞きした報道が真実であると仮定した上で書かせてもらうと、私は被告は死刑でいいと思っています。自分がもし本村さんの立場になって、被告に「ちょーしにのっている」と言われたり、記者会見で被告の弁護士に事件を図解説明されたり、「ちょうちょ結びをしようとしてつい力が入って殺してしまった」という無茶苦茶な論理で弁護されたり、裁判を欠席され延期されたり、被告の父親に愚弄されたりした時のことを考えると本当にやりきれない思いでいっぱいになります。

この事件は現在広島高裁に差し戻しになり、未だ結論が出ていません。本村さんの無念が少しでも晴れるような結論になれば良いと思っています。

弁護士はいつでも被告の権利を守る方向で動くが、じゃあ自分が被害者になった場合はどうなのか?というテーマに対して、まずは弁護士も一人の人間であるという視点から私なりに作り上げたらこんな感じの小説になりました。まずはご一読いただければ幸いです。

小説は毎週日曜に更新予定です。今日から数ヶ月間、日曜は小説の日となりますので宜しくお願い致します。


                          正義のみかた

※この作品はフィクションであり、実在する、人物・施設・団体とは一切関係ありません。

第一章 静寂に潜む黒い影

「判決を言い渡す」
厳粛な空気の中、裁判長が重々しく告げる。被告である少年はうつむき加減にただじっと判決を待つ。

被告小山敦(17)の弁護を請け負う事になった私、柿内明義は黙って目を閉じた。全力は尽くしたつもりだ。神に誓っても良い。

ここ福岡地方裁判所内の空気も重い。判決を聞き逃さないよう固唾を飲んで見守っているのか、実は咳をしたくとも場の空気を読んでか、傍聴席からは物音一つ聞こえない。遺影を掲げた男性が一人中央に陣取ってじっと裁判長を睨み付けているかのようだ。この静寂がそれぞれの立場の人をそれぞれに不安にさせる。散々場数を踏んだ私ですら未だにこの静けさには慣れない。

今流行りのクールビズだかチームマイナス6%だか知らないが裁判所内の温度は高めだ。クーラーは薄く入っている程度。お陰でワイシャツの内側がジトっと湿っている。今は8月。昨年に続き今年も猛暑らしい。まあ私なんかよりも真っ黒な法衣をまとった裁判官のお歴々の方が余程暑いに違いない。外ではクマゼミが我が世の夏とばかりに鳴き叫んでいる。

敦君の犯した罪は重い。そして犯した罪が残念ながら歴然とした事実である以上、弁護人である私に出来ることと言えば求刑の中に幾分かの情状酌量の余地を見いだすことしかない。

私はプロだ。この道に入ってから10年以上弁護士で飯を食ってきている。それなりに新聞紙上を賑わした事件で被告人の冤罪を立証し無罪を勝ち取った事もある。プロである以上、たとえ仕事が被害者の遺族を苦しめる事になろうとも、社会通念上世間に理解を得られない判決になろうとも、自己ベストを尽くし被告の正当な権利を守らなければならない。それが私の仕事に対する忠誠心であり、使命であり、モチベーションである。

事件は数ヶ月前に遡る。5月15日の昼過ぎ、福岡市内で会社員若葉和明さん(28)の妻幸恵さん(26)とその一人娘来未ちゃん(3)が自宅で何者かに殺害された。その容疑者として挙がったのが当時16歳だった彼だ。近隣住民の目撃証言により彼は間もなく逮捕された。

殺害動機は遊ぶ金欲しさと強姦目的であった。勿論当時の新聞やテレビのニュースで取り上げられた。少年犯罪のカテゴリーとして。しかしその取り上げられ方は一昔前と比べて小さい。最早少年による犯罪、殺人事件は日常茶飯事で、今更国民の注目を集める事は難しい。ニュース性を上げるには更なる付加価値が必要だ。すなわち「警察の不祥事」「動機や犯行の猟奇性や異常性」「精神面に潜む社会の悪影響」「より若年による犯行」といったオプションがないと。

被害者遺族の心情に思いを馳せると非常に不謹慎な話であることは重々承知である。遺族にとって話題性はいらない。むしろ世間が騒ぎ立てる程被害者意識が強くなり、深い悲しみを背負わねばならなくなる。遺族にとって犯罪者の動機や手口なぞどうでもいい。ただ家族を何者かの手によって突然奪われたというその一点のみが重要なのである。

被告は最近のいわゆる「想像力の欠如した若者」という人種だ。すなわち事の善悪の区別が付かず、自分が犯す行為が自分のみならず周りにどういう影響を与えて、どういう事態が起こるのか考えもせず、場当たり的に犯行を行う。現代病とも言えるかも知れない。私の一番嫌いなタイプだ。だからと言って弁護に手を抜くつもりはない。くどいようだが私はプロなのだから。

私は福岡市内で小さいながらも法律事務所を持っている。その中では全部で26人の弁護士が働いていて、事務員や非常勤の者も含めると80人そこそこということになるだろうか。市内の一等地で職場環境は悪くないはずだ。

弁護士を目指した動機はごく単純でありきたりなものだ。親が弁護士だったからである。法曹界ではそこそこ名の知れた父親の後を受け継ぎ、私が今は全てを取り仕切っている。父は最近では専ら趣味のゴルフの方が忙しいらしい。

一般的に2世というのは苦労するものだ。何かと父と比較されてしまう。しかし父は「偉大過ぎる」ということはなかったし、特に偉そうに振舞っているわけでもなかった。家に戻ればごくごく普通のマイホームパパであった。そのせいか、私も変に気負い過ぎる事無く経験と実績を重ねる事ができた。

父の評判はこの業界でも良く、その恩恵を授かって私も受けは良い。「あぁ、柿内さんとこのおぼっちゃんね」と良くしてもらっている。私は特に父を超えようとは思っていないし、自分らしくやっていければ良いと思っている。今のところ大過なくまずまず上手くやっているつもりだ。仕事も事務所の運営も。

大学卒業後に司法試験に受かった私は、同じ大学の法学部に在籍していた洋子と結婚し、娘も授かった。梓と名付けた。順風満帆とはこのことだ。万事如才なく進んでいた。娘は妻に似てかわいらしく、将来は美人になる事を約束されたはずだった。

何故過去形で語られるのか?それはもうこの世にはいないからである。思い出したくもない。殺されたのだ。強盗と強姦目的の少年によって。そう、今私が弁護している事件と全く同じような境遇を、私も7年前に被害者として経験しているのである。