KA.Blog

株式市場で気になる銘柄をピックアップして分析、検証していきます。主に中期~長期の投資で成果を上げ、値動きを追っていく予定です。株の他にも日常の話題やコーナーで綴っていき、むさくるしくない(?)ブログにしていきたいと思っています。

だめだよ、ビンタは(DV)

また家庭内暴力で悲惨な事件が起こりました。盛岡市の高1の男子生徒が無断欠席を注意した母親を殴り殺すという事件です。私はよく中国の歴史小説を読んだりするのですが(ちなみに今は田中芳樹先生の岳飛伝を読んでいます)、儒教の国中国では子供が親を殺す何てまず考えられません。そして日本も昔はそうだったはずです。技術が進歩した分、人の心は反比例して退化していくものなのでしょうか?

今回の事件も含めてDV(ドメスティックバイオレンス)という言葉が一般的に市民権を得ています。私の同級生で家庭を持っている人間はたくさんいるのですが、そのうちの一人がDVの気があるとの噂が耳に入ってきました。真偽の程はわかりませんが、正直、そいつなら有り得るのかなーという気がします。学生当時かなり仲は良かったのですが、今は連絡も取れません。

DVが他の事件に比べてマシな点は他人に迷惑をかけないことです。つまり、全て自分の家庭内の問題であるということ。今回の事件も親が息子の教育に失敗し、結果自分たちに跳ね返ってきましたが、家庭内で完結し、他の家庭を壊すようなことはしていません。ただ無論決して肯定しているわけではありません。

DVが他の事件に比べて陰惨な点は一般的にくつろげる場所、精神的な落ち着きを持てる場所、聖地である場所のはずの家庭が外の世界よりも悲惨な場所になってしまっている点です。そんな状態になった場合、一体どうすれば良いのでしょう?大人で金銭的に独立していける人は家庭から離脱し、一人暮らしでもすれば逃げられますが、そうでない人はどうすれば良いのでしょうか?もし自分がそうなった時の事を考えるとぞっとします。そしてうちは貧乏だったけど良かったなーとしみじみ思います。

DVに限らず、世の中は色んな闇を内包して成立しているわけですが、少しでも陽が当たるように祈らざるを得ませんね。

さて、今日は日曜ですので小説の日です。例によって前回までの分は毎週日曜のブログを参照してください。


                         台風一過

第二十章 台風一過

沈み行く太陽の残照を右手に受けながら、私と藍は国道121号線を南下していた。往路で通過した時と相変わらず、車が行き来するような気配はない。台風一過により一旦は打ち水効果があったようだが、湿度が上昇して今は逆に蒸し暑い。加えてフェーン現象により気温も何℃か上昇しており、一度でもスクーターを止めると汗がじんわりしみ出てくる。

往路の段階でも気分が良かったわけではないのに、復路の今は疲労と失意の淵に沈み込んでいた。藍が何もしゃべらないので私もしゃべらない。

結局あの晩、台風が過ぎるまで動くこともできず、一晩洞穴の中で過ごした。太陽が出て来た時には雨も風も止んでいたが、どこまでも続く青空は「侵入」を意図する私たちにとって最悪の条件だった。昨晩目撃されてしまったし、この付近の警備も強化されているだろう。藍もすっかり弱気になってしまって、これ以上先に進むことはできそうになかった。

山を下りた私たちは元来た道を引き返し、東京へ帰ることにした。他にどこへ行けば良いというのか。選択肢は残されていなかった。スクーターを取りに戻り、南に向かって走る。

台風8号が通過したということは、再度新たなウィルスが運び込まれ、そして撒き散らされたということになるのではないか?日本国民が等しく考えるだろうその不安は、私はあまり心配していなかった。

というのも、今まで年に何度となく台風は日本にやってきているのに、ウィルスが運び込まれたことなんて一度も無かった。この前通過した台風7号の際にたまたま偶然に偶然が重なりウィルスが日本国内に持ち込まれただけだ。何とかという偉い教授さんが解説していたではないか。そんな偶然が立て続けに起こるものか。もし起こったとしたら、神は何て気まぐれな天罰を我々に与えるのだろうか?

「本当に大丈夫かなぁ?」
藍が心配そうな声を上げる。

そうは言っても無論僅かな可能性は残される。そして、その僅かな可能性が逆に人の不安心理を何倍にも増幅させる。私がやけに落ち着いていられたのは、結果論としてテレビやラジオという情報源がなかった事が逆に良かったのかも知れない。もし、テレビなんかで台風8号が徐々に接近してくるのを知ってしまうと、日々不安が不安を呼び、とても正気でいられなかっただろう。

だが、今更どうしようにもない。もう全身くまなく外気に晒されてしまった。洞穴から出てきた当初は確かに警戒していたが、まるで使い始めのノートのように、最初のうちは気を使っているが、そのうち段々どうでも良くなってきて、普通に水たまりを蹴ったりしていた。

突然この町の災害用のスピーカーからゆっくりとした音声が流れ出す。私たちはスクーターを一旦停止させ、耳を澄ませた。
「こちらは喜多方市役所防災課です。政府から発表された見解によりますと、昨晩通過した台風8号にはウィルスは含まれておりません。皆さん安心して生活してください。繰り返します・・・」

すっかり携帯の電池もなくなり、情報の源泉が全くなかった我々に入ってきた唯一の台風情報だった。ただ完全に信用して良いものだろうか?あまのじゃくかも知れないが私は逆に不安を感じた。政府は嘘の情報を流し、国民を動揺させないようにしているだけではないか?まあ政府の発表が本当であれ嘘であれ、少なくとも先ほどのスピーカーの声の主はその情報を信じて自分の仕事をこなしているわけだが。

内心そう考えながら、藍には笑顔を取り繕う。
「ほらね、やっぱり大丈夫だった。」
「うん。良かった。」
表面上は笑顔で返す藍。だが心中は。

今回ウィルスが新たにやって来なかったかも知れないが、前回のウィルスが沈静化したわけでもない。だが不安はそれだけではない。藍は気づいてしまったのだ。昨晩洞穴の中で語り合った内容。すなわち家族の絆は意外に脆いものではないかということに。昨晩から元気がないのはそのせいだった。例え今回の一連のウィルス騒動が沈静化し、境界線の封鎖が解かれたとしても、一度植え付けられた人間の偏見はなかなか拭い取れるものではない。では自分が逆の立場であったなら、喜々として家族の再会を受け入れられるだろうか・・・

2日がかりでようやく東京に戻ってきた。一日の半分はスクーターに乗っているわけで、この一週間はずっとその状態が続いていたのだからお尻が痛い。後ろに乗っていた藍は尚更だろう。スクーターを元の位置に戻す。もしスクーターの持ち主が見たら異常な程走行距離が増えているメーターに驚くことだろう。残念ながら燃料を満タンにして返す程私はできた人間ではない。

東京に近づくにつれ私たちはある異変に気づいていた。それは大部分の人が当たり前のように外を出歩いていることであった。車の通りも目立つようになっていった。

私たちは浦島太郎にでもなったかのようにキョトンとしていた。さすがにまだ台風が来る前の状態にまで回復したとは言い難い。だが60%程度は回復したと見て良いだろう。どうやら人間はいつまでも同じ場所に止まって息を潜めていることに耐えられる生き物ではないらしい。時間の経過と共に皆の心の中で警戒心を楽観論が上回っていた。一週間分の蓄えを食いつぶし、もう物理的にも限界だという面もあったのだろう。初めはお隣さんが外に出る様子をじっと見ていた人達も、お隣さんの体に変化のないことに安心して連鎖的に外に出だしていた。

ただ、ウィルスに潜む恐怖が本格的に体現する日はすぐそこまで来ていた。(つづく)